無自覚で、鈍感で



「それじゃあマリ君、二時間後にまたここでね」
「うん」
「携帯にここの住所入れておかなくて大丈夫?知らない人について行っちゃ駄目だからね?」
「だっ大丈夫だよ!ボクは子供じゃないんだから!!」
心配性なんだからな了は!と頬を膨らまされ、獏良はごめんごめんと笑って謝る。
「でも何か困ったことがあったらすぐに連絡してね。絶対だよ!」
「分かってる…ありがと。じゃあ了、また二時間後!」
「うん、また後で〜」


ウキウキと歩いていったマリクへ手を振る獏良。
休日の今日、獏良はマリクと二人で買い物に出てきていた。
普段は家を出てから帰るまでずっと一緒なのだが、店が立ち並ぶ目抜き通りに着いてすぐ、獏良はマリクに別行動を提案したのだった。

「さて、じゃあボクも買い物に、」
『宿主ぃッッッッッ!!!!!!!!!!!』
「わあっ?!!!」
突如目の前に現れたのは凶悪面の自分と同じ姿の意識体。
「はーー…やめてよもう!びっくりするでしょ!」
『びっくりするでしょ、じゃねェよ!!!ナニのほほんと見送ってやがる!』
「なにが?」
『だから!何で別行動なんかしてんだよ!!!?とっととマリクを追いかけろ!!』

もしバクラが意識体でなかったら通行人の注目の的になっていただろう声の大きさ。
唯一バクラの声が聞こえる獏良は両手で耳を塞ぎながらニッコリと笑った。
「やだv」
『ァあ?!!!』
獏良は左手を腰にあて、目の前に立つ…というより少し浮いた状態のバクラを右手でビシッと指差した。

「今日はね、超、超、超〜〜っディープなオカルトショップに行くって決めてるんだよね」
『だからなんだっつうんだよ!』
今にも殴りかかってきそうなバクラの雰囲気は、十人に問えば十人全員が恐怖を感じると答え逃げ出すだろう。
けれど獏良は怖気づくどころか楽しみながらバクラとの会話を続ける。
「オカルト好きって人でも裸足で逃げ出しちゃうような濃ゆーい店でね、そんな所に一緒に行ったらマリ君が可哀想でしょ?」
『外で待たせときゃいい話だろうが!』
「それだったらマリ君に申し訳なくて買い物に集中できないじゃんか。お前ってバカ?」

バカ、と言われたバクラのこめかみに青筋が立つ。顔をひくつかせたバクラが手をバキバキと鳴らした。
『いい度胸じゃねェか宿主サマよぉ…!だったら力尽くでアンタと交代してやるぜ!!!オラァッ!!………あ?なんでだ!!?どうして代わらねぇ?!!!!』
意識体のままの自分と肉体の持ち主のままの獏良の姿。
驚くバクラに、獏良は優越感ににんまりと唇で弧を描いた。
「ふっふっふ…今日のボクは一味違う!そう、オカルトショップに一人で行くという強い意志はお前の力にも勝るということさ!!つまりお前をこうして部屋に入れることもできちゃったりするわけで」
『うおっ?!お、オイ宿主やめろ!!!テメェおいっy』
外に意識体として出ていたバクラが一瞬にして心の中に戻されたことに驚きの声を上げる。そして次の瞬間、人格交代させられる際いつも獏良が閉じ込められる心の部屋がバクラを呑み込んでバタン!とドアが閉まった。

「よーし!それじゃあオカルトショップ目指してしゅっぱーつ!」
部屋の扉をドンドン叩く大邪神と盗賊王が混ざり合った男の必死さに獏良は笑いながら、店までの地図を表示した携帯電話を片手に上機嫌で歩き出したのだった。



****************



(こっ………こんな所にこんなショップがあるなんて…!!!!!)
目の前に並ぶ色とりどり、様々なメーカーのバイクにマリクは感動する。
今日獏良と一緒に買い物に来たのは童美野町から三駅離れた街だったのだが、到着して暫く歩いてから別行動を提案された。
休日に買い物をする時はいつも一緒に行動をするので、バイクショップを見かけたとしてもバイクに興味のない獏良を退屈させるのは申し訳なくて入らないのだが、一人行動なら時間内に好きなことが出来る。
なので喜んで承諾し一人で行動を開始したマリク。
目抜き通りにはショップが見当たらなかったので近くの店に入り店員に尋ねたところ、表通りから少し外れたこの店を教えてもらい辿り着いたのだった。
「すごい…最新のバイクからヴィンテージ物までこんなに…!!」
「お兄さん日本語喋れるんだね。どうだいウチの商品は」
まるで展示会のようなラインナップに目を輝かせて見ていると感想がつい口に出てしまった。
店に唯一居た店主らしき人物に声をかけられたマリクは、興奮した独り言を聞かれたことの恥ずかしさに顔を赤らめる。

「ああ、ごめんね急に声かけちゃって。でもそんな風に素直な感想が聞けて経営者として嬉しいよ」
「あ…えっと、その」
「どこの国の人?」
「え、エジプト…」
「へぇ、エジプトかあ。オレ行ったことないなあ。あ、ねぇ、何乗ってるの?」
「…あそこの、二年前のモデルに」
「お!センスいいねぇ!オレもあれ店に置きたいんだけどなかなか手に入らなくてさー」
やけに馴れ馴れしい店主に、他人とのコミュニケーションが苦手なマリクは引き気味だったのだが、自分の乗っているバイクを褒められて得意気になってしまう。
「…だろ!ボクもあれを手に入れるのには苦労したんだ!」
グールズとして別の国で移動中、バイクが走っているのを偶然見かけてオーナーから強奪し、今はマリクの所有物となっているそれ。
「羨ましいなあ。その他にも何か乗ってる?」
「いや、今はあれ一台だけなんだ。以前は何台か持ってたんだけどね。事情があって手放しちゃってさ」

先程までのコミュ症具合が嘘のように饒舌に喋りだすマリク。店主はニヤリと口の端を上げてポケットから取り出した携帯端末を弄り始め、画面をマリクに見せてきた。
指でスクロールされる写真にマリクの目は釘付けになり、菖蒲色の瞳がキラキラと輝きだす。
「えっ!これ限定モデルのやつじゃないか!こっちは絶版で高値で取引されてるやつ!一体どこに置いてあるんだ?!」
きょろきょろと店内を見回すマリクに店主が肩を竦める。
「ごめんね、店には置いてないんだ。というのも今見せたの全部オレ個人のものでね」
「…そっか。まあかなりのレア物だもんな。ボクが店主でも店に置きはしないよ」
がっくりと肩を落とすマリク。頬にさらりと当たる髪を耳にかけつつ独りごちていると、店主の方からゴクリと唾を呑みこんだような音が聞こえた。
「…いやぁ!お兄さんとは趣味が合うみたいだ。どう、今からウチに来てオレのコレクション、見てみない?」
「え?!!!」
あまりにも突然の申し出にマリクは素っ頓狂な声を上げる。
「でもいきなりなんて悪いし、ボク…待ち合わせの時間があるから」
「ああオレ一人暮らしだから構わないよ。ちなみにその時間まであとどれくらいある?」
「え…と、あと一時間以上は」
「なら大丈夫だって。オレんちここから五分もかからないマンションだからさ!」
「店は?」
「半分趣味でやってるような店でさ、休みも不定休。今お客さんはお兄さんだけだし閉めたって問題ないよ。…で、どう?」
「〜〜〜〜行きたい!見せてくれ!!」

獏良との待ち合わせにはまだ十分余裕がある。この店主の家に寄ってバイクを鑑賞しつつ語り合ったとしてもお釣りが来るぐらいだろう。
そう思ったマリクは本心に従って男の誘いに乗ったのだった。
「よしそれじゃあ決定!すぐ閉めるから少しだけ待っててよ」
「別にそんなに急がなくても」
「それは駄目だよ。こっちは一秒でも早く味わいたいんだからさ」
「え?」
「あぁいやいや!早くお兄さんとバイクについて深く語り合いたくってね」
「………うん!ボクも!」

満面の笑顔で頷いたマリクは店の外で店主の片付けを待った。数分もしない内に裏口から出てきた店主がするりとマリクの柳腰に手を回してくる。



「んっ…?」
「お待たせ。さ、行こっか。裏通りを歩いたらすぐだから。あー早くハメたくてムラムラしてきちゃったよ」
「ああ、あ、うん」
ここの地域の奴は話し合うことをハメるって言うのか?それにムラムラじゃなくてワクワクだと思うんだけど……と先程から何かおかしい店主に疑問を抱くマリクだったが、ボクも嬉しいようにこの男も自分と趣味が合うボクに会えたのが嬉しいのかな、と腰に手を回されたことも含めさして気に留めなかった。



****************



「はあ〜〜〜満足満足vあれ、まだそんなに時間経ってないや」
超ディープな店から出てきた獏良は店内と違って眩しい外の光に目を細めながら大きく腕を広げる。
その両手には一つも荷物を持っていない。購入した品物は全て自宅のマンションへと宅配手続きを終わらせていた。
「目的の店には行けたし、マリ君との約束の時間までぶらぶらしとこうかなー」
『ハァッハアッ!はっ…クソッ…はぁっ…やっと出られた…ぜ…!!!』
「あ」
目的を達成して気力が緩んだ獏良の心の部屋から出てきたバクラはぜぇぜぇと肩で息をしていた。
琥珀色の瞳をぱちくりとさせた獏良だったが、無視して裏通りの道を歩き出す。
『お、い宿主、いい加減交代しやがれ…!早くマリクのヤツを見つけねェと…』
「そんなに心配しなくても大丈夫だってば〜。マリ君小学生じゃないんだからさぁ」
『アホか!そういう意味じゃねェんだよ!』
「む。じゃあどういう意味なのさ。第一お前はね……あ、あそこ、マリ君だ!」
異常なほどに苛立ちマリクを探せと言ってくるバクラに腹が立ってきた獏良は、一つ叱ってやろうと背後に浮くバクラへとくるりと向き直った。
その時遠くの方に褐色長身の同居人の姿が確認できて獏良は声を上げた。
しかし彼は一人ではなく男と共に歩いていた。ぴったりとくっつき、どうやら腰には男の手が回っているように見える。

『やけに親しげだけどあの人マリ君の友達かな?』
「なワケねェだろうが!!!」
『…あ、あれっ?!!なんでボクが中に入ってるの???!!!ってちょ、ちょッちょっと!うわわわわ!!!』
地に足をつけていた筈なのにいつの間にか心の中に突っ立っていた獏良。
気付いた直後心の部屋に吸い込まれ、一体何のつもりなのかと抗議する前に部屋の中に入れられて外から施錠されてしまった。


残ったのは肉体を得たバクラ一人。
「あンのクソガキッ…何やってやがる…っ!!!!!」
白銀の前髪をかき上げて吐き捨てたバクラは全速力で走り出した。

「おいマリクッ!」
「っわ、バクラ?!どうしたんだよ!」
あっという間に追いついたバクラは背後からマリクの肩を掴んで自分へと振り向かせる。
「知らねェ男について行ってんじゃねえよ!ほら、帰るぞ」
「痛いってば!あっおいバクラっ」
「ちょっと待てよ。嫌がってるだろ」
括れた腰に回った手にチッと舌打ちをして男から引き剥がすようにマリクの腕を引っ張ると、男がバクラの手首を掴んで阻止してきた。

「何なんだテメェは」
「それはこっちが言いたいね。これからこのお兄さんと二人でオレの家に行くんだ。邪魔するんじゃねえよ」
フフンと勝ち誇った表情を浮かべマリクを引き寄せた男。
バクラは眉間に深い皺を刻みマリクをギロリと睨み付けた。
「…どういうことだマリク」
「ど、どういうことって言われても…バイクのことで話が合って、レアなバイクを見せてくれるって言うからこの人の家まで行くだけで…」
バクラの気迫に圧され目を逸らしたマリクがぼそぼそと答えていく。
その間にも男の手はマリクの腰に回され…いや、回しただけでなくその細さを味わうかのように指を滑らせ撫で回していて、バクラは再度舌打ちをしてククッと低く笑った。
「…へえ、レアなバイクねェ。この男はテメェにバイク以外のモノも見せようとしてるようだけどな」
「え…?」
「っっっおい!変なこと言うんじゃねえ!」
「そう例えば…」
「ほらっ、こんな頭がどうかしてる長髪男なんてほっといて早くオレの家に、」
「無様におっ勃たせたここら辺とかをなァ!!!」

ぐちゃっ!

「い゛ぎィ゛ぃ゛ぃ○※△×□〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
蹴り上げた膝が男の股間に直撃し、男はその場に倒れこみ痙攣しながら泡を吹いて気絶してしまった。
目の前の出来事に暫し立ち尽くしていたマリクが我に帰って男の傍へと寄りバクラを睨んで怒り出す。
「なんてことしてるんだ貴様はっ!!!この人は何もしてないだろ!!?」
「何も…だァ?」
「そうだよ何も…痛っ!だから引っ張るなって!…ってどこ行くんだよ!!?」
マリクの細い腕を掴んで、更に細い陽の当たらない路地へと連れ込んだバクラは建物の壁にマリクを押し付けた。
「こんな所に連れてきて何する気だよ!?」
壁に縫い付けられ頤(おとがい)を持ち上げられたマリクは身を捩って抵抗する。

あの店主は何の危害も加えてきてないのに、一体何が気に食わなかったのか、なにも急所に蹴りを入れなくてもいいじゃないか!とマリクは憤慨していた。
そして何よりバクラの所為でレア物バイクがお目にかかれなくなってしまったのだ。
「おいマリク、まさかテメェ本当にあの男の家に行って仲良くバイク鑑賞やら楽しいお喋りやらをすると思ってたのかよ」
「だからそうだってば!…ん…っ?」
頤を掴んでいた白い手が頬を滑って耳朶を捏ね回してくる。
やわやわとした快感に肌を震わせると、不機嫌を顔に貼り付かせたままのバクラの顔が近付いてきた。
ぬる……ぬちっ
「あッ…!?あぁ、や……っ!ぅう、んっ…〜〜!」

ちゅる、ぬぷ、くち、と差し込まれたバクラの熱い舌。
ぬめぬめと舐め回すぬるついた感触と鼓膜に響く淫らな水音に、マリクは美身をカタカタと震わせてバクラの服を掴んだ。
「や、めッ……!っあ…ぁア……!んん、ひッ……い……!」
「ガキが…ヤリ目的に決まってんだろうが…」
冷たい、突き放すような言葉にはやけに熱が篭っていた。
股の間にぐりりと膝を入れられ、力の入らないマリクは脚は勝手に開いてしまう。
「あ、ああ、や、ぁ…」
ぬちりと耳から抜け出ていったぬるついた肉舌。
快感による褐色の美肌の震えは止まらず、マリクの美貌は赤らんで溶け始めていた。
後頭部と柳腰にバクラの手が回りがしりと抱き締められてキスをされる。力強い抱擁に、マリクの臍下辺りが疼きだす。
「んっ、んんッ………あっ…」
「なんだ、こんなんじゃ足りねえってか。流石は淫乱マリクちゃんだなァ?」
「なっ何言って…!!」

唇を食まれるだけのキスに本能が物足りなさを訴えてきて、マリクは瞳を潤ませながら目の前の男を見た。
しかしバクラから発せられた言葉に、マリクはビクンと震え眉根を寄せる。
象牙色の髪はぐしゃぐしゃと乱され、腰を掴んでいた手が張りのある尻に移動して痛いほどの力で揉みしだいてくる。
「ひうっ!」
「オレ様とするだけじゃ足りず、外で男誘うようなテメェは淫乱以外の何者でもねェだろうが」
「違っ、ボクは誘ってなんか…!それにあの店主がそんなことするつもりだったかなんて分からないじゃないか!」
「そのどうしようもねえ鈍感さは本当に天然か?テメェを犯してェ男なんざごまんといンだよ。言えってマリク。本音はあの男にこんな風にされたかったんだろ」
「あうっ!ふ…!」



言ってバクラはぐにぐにと尻を揉みマリクを感じさせていく。
エロティックな気分が下半身から上ってきたが、もしこれが目の前の男にされているのではなくて、あの店主にされていたらどうだろうか。
考えた途端全身に走った嫌悪感に、マリクは下唇を噛んだ。
「……されたくないっ…」
「あ?」
「だからっされたくないって言ったんだ!あの男にもっ…他の男にも…!!」
容赦無く肉尻を揉んでいたバクラの手の動きがぴたりと止まる。
バクラの服を、マリクは震える指先できゅっと握った。
「そんなの、考えたくも…ない……」
「………ならテメェは誰にされりゃ満足なんだよ」
「っ」
まだ怒ってはいるようだがいつもの声色に戻ったバクラに少しホッとしたものの、問いの内容に堪らず顔を背けたのだが再び頤を掴まれ正面に向けさせられる。
薄っすらと浮かんだ意地悪い笑みに、どんな答えを求めてるのかすぐに分かってしまった。
満足、だなんて。そんなの、そんなことを言ってしまったら、ボクは死ぬほど恥ずかしくてバクラがただ一人満足するだけじゃないか。
…口に出して言えるわけがない。

悩んだ末、美眉をキュッと寄せたマリクは、自分を壁に押し付ける男の唇に自分のそれを重ねた。
触れてすぐ顔を離したマリクは紅潮したまま俯き、恥ずかしさに声を震わせながら口を開く。
「っこれが答えだ…ばかバクラっ……、あっ?!」
ごり、と下半身に押し付けられた硬いモノ。
「オレ様が望んだ答えとは違うが…まァいいぜ。今からたっぷり身体に教え込んでやるよ」
「んんっ、あ、おい待てっバクラッ…!」
「テメェはオレ様無しじゃ生きていけねえってことをなぁ…」



END



マリクはとっても無自覚で、鈍感で、だからバクラは嫉妬する

初の合作バクマリです!
trashcanのけいさんに描いていただきました。ワガママを言ってなんと二枚も!!
こんなにもエロカワな男の子が入店してきたら持ち帰りたくなっても仕方ない。
一人行動させるのを禁止しているわけではないけど、マリクはフェロモンがとんでもなく出る日がたまにあって、
そういう日は部屋から一歩も出させなかったり外出時は常に一緒に居るのを徹底するバクラさん(3000+16歳)。

けいさんありがとうございました(*´∀`*)