honey bath



「それじゃ失礼しゃーっす!」

「はーいご苦労様でしたぁ〜」


ガチャンッ

配送員が軽く会釈をして出て行く。
そっとリビングから見ていたマリクがぱたぱたとスリッパを鳴らして駆け寄ってきた。
床に置かれた小包の前でしゃがみ込み、興味津々と言った表情で獏良を見上げてくる。

「なあ獏良っ、これ何だ?」

大きく開かれた瞳に、獏良はクスリと微笑んだ。
「開けてみなよー」
「いいのか?」
「もちろん」

獏良もまたしゃがんで、小さな箱をぱしぱしと叩いた。


ほんと、可愛いなあ

ダンボールを開け嬉しそうに包装を剥がしていくマリクを見て、ふと思う。
これじゃあアイツが夢中になるのも分かる気がする……


『オイこら宿主!』

「(あーハイハイ分かってる分かってる。ていうか僕の心勝手に読まないでよね!)」

『フンッ』

宿主である獏良の思考を読んだバクラがゆらりと現れた。
無論“意識体”という形なので獏良以外見ることは出来ないが。


「『honey bath』…はちみつ風呂?」
手に取った濃い黄色の袋を耳元で振りながら箱に記された文字を読み上げたらしい。
マリクの小首を傾げる仕草に、意識体のバクラが舌なめずりをした。
獏良は、はっとして男に体を乗っ取られないようにと意識を集中させた。

「ん…そう。商店街の福引で当たったんだ。これね、今結構人気の商品なんだってさ」
「へぇ、スゴいなぁ獏良」

中の粉がカサカサと音を立てる。

「使ってみたい?」
「えっ?あ、でも」

眉尻を下げて戸惑うマリクは、同居して数ヶ月経った今でもまだ気が引けるのか、素直な気持ちを言えないでいた。
これがバクラならばここでマリクをからかい喧嘩へと発展してしまうのだが。
にっこりと笑った獏良は、箱からもう一袋取り出した。
「杏子ちゃんにもあげようと思ってるんだけど、こんなにもあるからマリ君達にも使ってもらわないと減っていかないんだよ。だから、ね?」
「う…うん」

もじもじと俯きながら頷くマリクに、獏良は閃いてパン!と手のひらを合わせた。

「ならこれ使って今から一緒に入らない?!」
「う、うん。ってエッ、えぇえ?!!」
ぱあっと顔を輝かせる獏良とビクリと体を震わせて驚いた顔をするマリク。

「お風呂に入るにはまだ早い時間だけどね。そうと決まれば早速しゅっぱーつ!」
「あの、ばく、いやッちょっと待って」
あわあわとするマリクに、獏良は口の端を持ち上げた。

「ふーん、アイツとはよく入るのに僕と入るのは嫌なんだー。へー、ふ〜ん」
「うぐッ……!!」

慌てるマリクをじと目で見つめると、言葉につまったようで顔を真っ赤にさせてビクン!と体を硬直させた。
あ、少し可哀相だったかな、と思っていると、袋を握りしめたマリクに強引に腕を引っ張られる。
ドスドスと音を立てて彼が向かう先はどうやら風呂場のようだ。

「〜〜獏良ッ!一つ言っておくけど!ボクは!アイツと!そんなに沢山は入ってないんだからなっ!!」

声を荒げるその様に、くすりと笑った獏良はマリクに見えないように小さくピースサインしたのだった。







ピチャン…

浴室の天井から、膨れ上がった雫が水面へと落ちる。
広がる波紋。
立ち上る湯気と温かい湯。



「すげぇな、湯がドロドロだ」

この男が興味をひかれるなんて珍しいじゃないか。
浴槽の端によって距離を取りながらボクは思う。
バクラは片手で掬った濃い、オレンジ色に近い黄色の湯を湯船に落としてニンマリと笑った。

「ククッ、そう離れんなって。寂しいだろぉ?別に取って食やしねえよ」
「うわっ!」

どぷんっ!

不意に腕を引かれた、と思ったらボクはバクラの脚の間にすっぽり収まるように抱き締められていた。
その、裸で密着してるものだから嫌でもバクラのアレが腰に当たって……
て、ちょ、ちょっと待てよ、なんでコイツ勃起させてるんだ?!

「…ッおい」
「あ?」
「何もしないんだよな…?!」

ボクは念を押すように言ってやる。
バクラとセックスするのは別に…嫌いってワケじゃない…けど、こんな昼間から風呂場でなんてゴメンだ。
それに昨晩だってあれだけ…ッ、クソ、とにかくッコイツが何を言ってもボクは折れてやらないんだからな!
そう心に固く決めて、後ろからボクを抱き締める男へと振り返り睨み上げた。

「しねぇよ。ただお前をこうしときてェだけだ」
フン、と鼻を鳴らすバクラ。
ついさっき入れた粉末は、獏良が商店街の福引で当てた物で、本当だったらボクは獏良と風呂に入っている筈だったんだ。
なのに浴室に入った途端コイツが表に出てきて……!

…それにしてもこの入浴剤、本当に蜂蜜みたいだ。
蜂蜜の匂いとトロミのある感じが…なんだか、いやらしい…。



「甘ェ匂い。酔っちまいそうだぜ」
「んうっ」

首元に鼻を置かれ、そのままスンスンと犬のように匂いを嗅がれる。
くすぐったい、と身を捩ると先程以上の力でバクラはマリクを抱き締めてくる。
「あっ、甘いのは、入浴剤の香りだっ」
「蜂蜜か?違うぜ、オレ様が今嗅いでんのはマリク、テメェのニオイだ」
「ん、何言ってるんだ、ボクから甘い匂いなんてするはずないじゃないか!!」
「……ククク、テメェ自身じゃ分かんねぇだろうがなあ。この、脳が痺れちまうような甘ェニオイは」

ペロリ、と首筋を厭らしく舐め上げられ微弱な快感にカタカタと震える褐色の肩。
腰に当たる硬いモノを思い出したマリクは、ふと自分の下半身にも熱が集まっていることに気付く。

(嘘だろ…ッ?!なんでッ!)

気付かれないようにと膝を折り曲げて勃ち上がっているペニスを隠す。
密着するバクラのペニスがとろみのある湯よりも熱く感じられて、マリクは胸が締め付けられる程切ない気持ちになった。
腹と太股に挟まれてビクビクと大きくなる自分のペニスを乱雑に擦ってしまいたかったが、そんな痴態を見せられるわけもなく。
何より先程自分から「何もするな」とバクラに言った手前、どうすることも出来ない。
マリクはなんとか身体の熱を冷まそうと、つまらないニュースを頭の中で流した。

「おい…マリク、狭い浴槽でもねえんだ。足、伸ばせよ」
「や、やめ!ッ離…せッ!あっ」

油断していたマリクは膝裏に手をかけられ呆気なく身体を開かれた。
そのまま、ぐ、とひっくり返すように持ち上げられ黄色の水面から赤い先端が現れる。
どんな状態か分かっていたが、視界に入った先走りを溢れさせてぬらつく自身の亀頭に、恥ずかしいやら情けないやら、気持ちが色々と混ざり合ってじわりと涙が紫の瞳を覆う。
「バクラッ!や…離せよっ!」
「何デカくさせてんだよ」
「ッ!貴様だって!!」

「あ?オレ様がどうしたって…?」

「ひっ、はア………!!」

自分を拘束する白い腕を引きはがそうとした途端、ぞくぞくぞく!と背を駆け上がってきた快感に力を抜かす。


(コイツ…!あつ、熱いっ…!)

陰嚢とアナルの間、蟻の門渡りと呼ばれる箇所にバクラがペニスを擦り付けてきたのだ。


クソ!お前だって随分前からデカくしていたのをボクに押し付けていたじゃないか!
それなのになんで…ボクばっかり…!

それにしても、バクラの息…荒い……興奮、してる……っ…

い、いや!いやいやいや!流されちゃ駄目だ!!コイツの思う壺じゃないか!!

あ…う……で、も


「言えよ、何だっつうんだぁ?」

にゅるにゅると行き来するペニスにマリクの頭は壊れそうな程に赤く染まる。
「あ、うあああ…バクラぁ…ッ」

「ならどうしてほしいか言ってみな。オレ様からは何も出来ねぇからなあ」

「ばく、バクラっ…あっ、ぁう」

そんなの言えるもんならとっくに言っている、とマリクは思った。
固く目を閉じて身体に走る快感に堪えるその姿にバクラはフ、と優しい表情になる。

「テメェの言うことなら何だって叶えてやる。テメェはオレ様の大事な大事なお姫サマだからなぁ…」

マリクはその言葉に、びくんとペニスが跳ねたのを感じた。


「ばくら……」
「ん?」

蚊の鳴くような声で言葉を紡ぐ。

「お前の…いっ、入れて…くれ…っ」
「…かしこまりました、姫サマぁ」

満足そうな声と共に体勢を変えられる。
浴槽の縁に腕を預ける形にされて腰をぐっと持ち上げられる。
熱い吐息を漏らしながら、マリクはバクラに全てをまかせた。
「マリク…慣らさなくてもいいよな?」
「ふ、あっ!」
熱い亀頭を、侵入を待ち望むアナルに擦り付けられ、堪らず淫らな声が上がる。

「なぁ。テメェだって早く犯されてぇだろ?それにこんな湯の中だ……なぁマリク…マリク…」
マリクに覆い被さりながらバクラは低い声で囁いてくる。
その声は焦りと興奮で掠れており、よりマリクの情欲をくすぐった。

(はァ…早く、擦られたい…ッ、中っグチャグチャに犯されたい……!!)


「も、なんだっていい…から…早く…!…バクっ、ぁあああっ!!!」

言い終わる前に硬いペニスを突き入れられマリクは歓喜の声を上げて背を反らせた。
そのまま間を置かずに中を掻き回される。

「ッあ、あっ、あっあっあっ、く、はぁっ」
「マリ、クッ…クソっ、はぁ…は」
「ぁぅ、んむっ」

開けっ放しで普段よりも高い声を漏らしていた口に指を入れられる。
バクラの腰の動きと連動する、いつもより重い湯の動き。
「おいマリク、自分でチンポ、扱けよっ」

ハァハァと荒い息と共に耳元で言われ、マリクはぶんぶんと頭を左右に振った。

「ん、んーーーーっ!!んうっんうっ!」
「クク、テメェさっき風呂の中でチンポおっ勃ててた時、擦りてえ、とか思ってたんだ、ろ?ッ、恥なんざ捨てちまえ!」
「うあっ!!!」

ぐぢゅん!

前立腺を押し上げるようにペニスを奥まで打ち付けられて舌を撫でられてしまい、たらりと涎が垂れた。
あまりの快感に何も考えられなくなり、がくがくと震える手を湯の中に沈ませバクラの動きに合わせて揺れる自分のペニスを握りしめる。
そのまま一心不乱に扱き上げた。

「んんっ、ふ、う、んぅうう、ううっんぐ…!!」
「いい子だ…マリク…っ!」


ぱしゃっぱしゃっぱしゃっぱしゃっ!
ぱしゃんっ!

上も下もぐちゃぐちゃと犯されれば、もうマリクの口からは相手の名前しか出てこない。
「ぅぐ!ん、んぅ…ぷはっ…!あっバクラッ!ばく、バクラッバクラぁあっ!あっあっあっ!!」
「イイぜ、マリクッ…はぁっ、く…!」

マリクの口から指を引き抜いて胸に持っていき乳首をこね回す。
「ふ、あぁああああ………ッ!!!」

「あ、バクっ、も、む…り…!あっ!」
「はぁっ、は、オレ様もっ…出すぜ…!」
「ひ、あっあっあっあっ、うぁあああっ…!!!」

ちゅむ、と性感帯である背の刺青を吸われマリクは一際高い嬌声を上げて湯の中へ精を吐き出した。

びゅくっびゅっびゅくっビュクッ…

断続的に白濁を吐き出すマリクに後ろを収縮されて、バクラも欲望の全てを胎内に叩き付けた。




「もー!何やってんのお前は!!」
『あー分かったっつうの』

あの後。
酸欠で意識を失ったマリクを慌てて抱えてベッドに寝かせたところで、宿主である獏良が現れた。
というか介抱の仕方が分からずに今まで閉じ込めておいた彼を呼び出したのだが。

頬を膨らませプンプンと怒る獏良にバクラはバツが悪くなり、意識体のままス…と水気を含んだマリクのしっとりとした髪を撫でた。

『悪かったなぁマリク…』
「はあ…本当にもう…」


バクラの滅多に見せない優しい表情に溜息をついた獏良は、マリクの額に乗せていたタオルを取り替えるのだった。