I need you




『誕生日おめでとう、マリク』
『おめでとうございます、マリク様』

「ありがとう、姉さん、リシド」


受話器の向こうから聞こえる声に顔が綻ぶのが抑えられず、マリクはしっかりと耳に押し当てる。
まだ日付が変わって間もない12月23日。
今日はマリク・イシュタールの誕生日だった。




――I need you――




壁に背を預けていたマリクはスリッパを滑らせながらずるずると床に腰を下ろした。

『そうだわマリク、プレゼントを送ったの。今日の朝には着くと思いますよ』
「え!そんな、悪いよ姉さん…!ボクはこうやって電話してきてくれただけでも嬉しいのに…」

今まで、一般的な家庭の姉弟の間では想像することも出来ないような迷惑をかけてきた。
此処日本にただ一人残るという我儘も聞いてもらった。
マリクはこの姉だけには頭が上がらないのだ。

『貴方が前から欲しがっていたヘルメットとブーツですよ?』
「ほんとにっ?!!…………あ、」
しまった。
口に手を当てるが受話器越しから聞こえてくるのは小さな笑い声。
その奥ではリシドも笑っているような気がして、マリクはかあっと頬を染めてブツブツ言う。
まだまだ子供なのだ、マリクは。
『ふふふ、ごめんなさいねマリク。でも嬉しいわ、そんなに喜んでもらえて』



その後暫くぶりの会話が弾んでいたが、ふ、と噛み殺した欠伸が聞こえてしまったのか、
さあもう寝ましょうマリク、と優しい姉の声にマリクは「うん」と頷いた。
昔からずっと変わらず自分に優しい姉と従者。
いつか2人に恩を返したいな…
胸に込み上げてくる熱いものを感じながら瞼を下ろした。

「おやすみなさい」

『おやすみなさいマリク。今日が貴方にとって良い日でありますように…』



布団の中で冷えてしまった手を擦りながら天井を見る。

(ボクにとっての良い日…か。そういえばアイツはどんなことをしてくれるだろうか)

過度の期待はあまり良くないな、と自嘲とそれ以外の意味も含めた笑みを零してマリクは眠りに落ちた。




□ □ □ □ □ □ □



「マリ君起きてっ!!」
「うっ…!獏……ら?」

ジャッ
突然襲い掛かってきた光に顔を顰めながらカーテンを開けた犯人の名を口に出す。
起き抜けのはっきりしない頭で壁の時計に目をやると、いつも自分が起床する時間よりも一時間早かった。
何事だ、とゆっくり身体を起こして目を擦ると、ベッド脇にミカエルその他三大天使でさえ平伏してしまうような笑顔の獏良がいた。

「マリ君あのね、朝食昼食夕食夜食おやつあと明日の朝食までは一応一通り作ってあるから温めて食べてね。洗濯はよく分からなかったら回さなくていいからね。あっでも今日の特番『ドキッ!世界のホラー密着24時』の時間になったらレコーダーの録画ボタンを押してもらいたいんだ〜なんだか壊れてるみたいでさ。押すだけだからっ」
「ちょッ、ちょちょちょちょちょっと待ってくれ!」

早口で一気に言われたが聞き取れなくはなかった。だが。
首を傾げてクエスチョンマークを浮かべる獏良に、マリクは目を瞬かせながら訊ねる。

「えーと…どういうことだ?」
「ふふ、今日ね、学校が終わったら海馬君ちでクリスマスパーティするんだ!」
「クリスマスパーティ?それって普通明日じゃないのか…?」

獏良はまたふふ、と笑った。

「皆でね、明日は大切な人と過ごそうってことになってさ。だからいつものメンバーで今日しようってなって、城之内君に海馬君に頼んでもらったんだ」
「大切な人、」
「うん。ボクにとって今一番大切な人は君達だからね。あ、そういえばさっきマリ君宛に何か届いてたよ?」
「ボク宛に?………あ、」

『今日の朝には着くと思いますよ』

獏良の言葉に照れ臭さを覚える前に数時間前の姉の言葉を思い出す。
そうだ、今日はボクの。
はっとして獏良を見上げるが、

「あ!もう行かなきゃ!それじゃマリ君、明日帰ってきたら4人でクリスマスパーティしようね!」

そう言って嬉しそうに出て行く獏良を見て、ぐ、と唇を噛み締め精一杯の笑顔で見送ることしか出来なかった。




起こす直前に作ってくれたのだろう、まだ温かいホットサンドをもそもそと口に含みながら机にうなだれる。
「あー……」
獏良がマリクの誕生日を忘れていたわけではない。
知らなかったのだ、本当に。

口の中の物を甘めに作ったミルクティーで流し込むと、ふと感じる気配。
もう一人の人格が現れた。

『おー主人格サマァ…起きんの早ェじゃねえかあ…、ふあーあ』
「ああ…おはよ」

大きく欠伸をする相手に、今日はコイツと二人きりだな…結局一人なんだけど、ともう一口飲みながら思う。
ああそうだ、と大事なことを思い出したマリクはパタパタとスリッパを鳴らして自室へ向かった。
食事中に立つのは行儀ワルいって獏良が言ってたぜェと腕組みしながら言う闇マリクを無視してクローゼットの中から箱を取り出した。
『何だコレ?』
「誕生日おめでとう、もう一人のボク」

闇マリクはぽかんと口を開けた。

『は…な、なんだよ主人格サマ。誕生日?オレの?』
「そうだよ。ボクが生まれた日にお前は生まれたんだからな」

そういやそうだったな、と闇マリクは納得するが。
次の瞬間、びくん!と肩を跳ねさせて恐る恐るマリクに目だけを向けた。

『主人格サマ悪ィ…プレゼント用意してねえ……』

悪戯をして怒られるのを恐れる小さな子供みたいだ、とマリクは口元を手で押さえて笑いを堪えた。
そもそも自分の誕生日すら覚えていなかったのにプレゼントなんて用意できるワケがないだろう。
「いいってそんなの。それよりこれ、ボク…からのプレゼントだから。朝食済ませたら交代するから開けてみなよ」

リビングに戻りテーブルの上に置いて再び椅子に腰掛けると、なにやら何か言いたげに闇マリクが背後で佇んでいる。
『な、なァ、主人格よお…』
「どうした。ホットサンド食べたいのか?」
『いや…そうじゃねえんだけど…あー…』
「何?」

『は……ッ箱の中身ッ何なんだよっ。別に凄ェ気になるワケじゃねえけど、よ』

やっぱりまだまだ小さい子供だな、と下に兄弟のいないマリクはこれが兄の気持ちなのかと口の中の物を飲み込みながら思う。
「ラジコンだよ。室内でも遊べるように、少し小さめだけど」

本当は自分で開けて知ってもらいたかったんだけどな。
うずうずしている彼がなんだか可愛くて言ってしまった。
欠伸をして、さぁ手をつけていなかったサラダを食べるか、とドレッシングをかけようとしたその時、

「主人格サマ、オレが喰うからアンタは寝てろ」
『は、え、エェエ?!!』

強制的に人格を交代させられた。

『オイお前ッ!!』
「別にいいだろぉ?アンタまだ眠そうだし」
『う……』
サラダを皿ごと食べかねない勢いのもう一人の自分を見ながらマリクは、確かにそうだけど…と口篭る。
確かに眠いし、今日は表に出ていても虚しいだけだ。
獏良は今日はもう帰ってこない。あの男も……。

「いいか主人格サマ。絶ッッッッ対に!!オレがイイって言うまで出てくるんじゃねぇぞ?!!」
『え、なん「どうしてもだ!!!!!」
『…はいはい分かったよ』

まあ今日はコイツの誕生日でもあるんだ。好きにさせてやるか……
つきつきと痛む胸を気にしないように、マリクは心の奥深くで眠りについた。




□ □ □ □ □ □ □



『いいかマリク、絶対ェ宿主にはテメェの誕生日教えんなよ?』
『なんで。いいじゃないか別に』
『あのなぁ。オレ様は』


マリクはうっすらと目を開け、また瞑った。
(なんであの時のことなんか…)


同居するようになってからすぐの、数ヶ月前のやり取り。
マリクは夢を見ていた。
愚痴るように言った男は、マリクがくすくす笑うとキツくキツく抱き締めてきた。
(二人きりで過ごしたいんだ、だって。…バカみたいだ)

あの男も、期待していた自分も。
仕方のないことだからもう忘れよう、と緩く頭を振る。
そういえば、もう一人の自分に身体を明け渡してからどれくらいの時間が経ったのか。
心の中に時計はない。空腹を感じることもない。
結構不便だなと一人ごちて声をかけてみる。
『なあ…もう出ていいか?』

……
…………。
返事はない。
うん、別にいいよな。というかこれボクの身体だし。
突っ込みを入れながらふと何とも言えない情けなさに気付いて溜め息を吐いた。
「……っと。う、わ」
出ていきなり、くるる、と腹の虫が鳴った。もう昼の二時を過ぎている。
しかしそれよりもマリクは自分の寝ていた場所に驚いた。
(なんで床なんかで………ん?)
リビングを見回すと青地に白のラインの入った包装紙とラジコンの箱があった。これは先程もう一人の自分へ贈ったものだ。
自分の手元にはコントローラーとペンが転がっている。

(ああ、遊び疲れて眠ったのか…。………?)

カサリ。
手を床についたと同時に乾いた音が鳴る。傍に一枚の紙が落ちていた。
きっと獏良のノートを勝手に使ったのだろう、破った跡のある罫線入りの紙を捲り上げて裏返すと、そこにはお世辞にも上手いとは言えない文字ながらも懸命に書いた事が窺える文章が。

『 タンジョウビ オメデトウ 』

「あいつ……」
十歳年下の相手からのメッセージに頬を緩ませながら紙を折りたたんでポケットにしまい込む。
キッチンに置いてあったメープルマフィンを一つ口に放り込んで、マリクは玄関へと向かった。
(やっぱり獏良に言おう。それで、おめでとう、って言ってもらえたらもう今日は十分だ。ごめん姉さん、リシド。プレゼントは帰ってから開けさせてもらうから)

大きな包みに心の中で謝りつつマリクは家を出た。



*******


「さむ…っ」
すん、と鼻を鳴らしてマリクは目の前の建物を見上げる。
(獏良、よくこんな寒い中を毎日通えるなあ…)

正門の前で棒立ちになっていると、校内から出て来る生徒達は全員が全員と言っていいほどマリクを二度見してきた。
遠くで携帯を翳す女生徒や見惚れて門柱に激突している男子生徒もいる。
外人の自分がそんなに珍しいのか、と居心地の悪さを感じたマリクは、「用があったら裏から入って来い」と以前バクラに言われた言葉を思い出し、足早にその場を後にした。

(でもそういえば、入ったってどうやって探せばいいんだ?)

実はマリクはバクラに誘われて一度だけ校内に入ったことがあった。
日本の学校に興味があったマリクは獏良の予備の制服を着せられ、疑うことなくついて行ったのだ。
その結果校内で制服着衣セックスなどといういかがわしいことをされ、怒ったのが懐かしい。
ただあの時は一人ではなかったし、行為に及んだのは人が滅多に来ない倉庫だったので獏良の教室も教えられていなかった。

しかしあれ程の美貌を持った人間だ、獏良は。
きっとどの生徒に尋ねても分かるだろう。
そう思ったマリクは裏門へと足を踏み入れた。



十二月も末。落ち葉はカサカサと揺れ、歩く度にくしゃりと音が鳴る。
その乾いた音色を楽しみながら暫く歩いていると、体育館、という建物の裏に人が見えた。
(あいつらに訊いてみよぅか)

声をかけようとしたその時、目に飛び込んできた光景にごくりと息を呑んだ。



(アイツ…こんな所で女と二人で何やってるんだよ……ッ)

咄嗟に木の陰に隠れたマリクはちら、ともう一度見る。
知らない女。
そして、こちらに背を向けている為顔は分からないが、長い銀髪にピンと立ち上がった髪型の高校生など、そうそういるものではないだろう。

(バクラ………)

向こうからは死角になっている為気付かれることはない。
ずきん
ズキンズキン
マリクの胸を得体の知れない痛みが襲う。
会話まで聞き取ることは出来ないが、女生徒は頬をほんのり桃色に染めてバクラを見上げている。
大人しそうに見える女生徒は清楚感に溢れていて可愛らしい。
こんな子と付き合えたらきっと男なら幸せだろうな……

(ボクは、何を)
気付くと掌がじっとりと滲んでいた。
ただ、あそこで話しているだけじゃないか。
どうってことない、ただそれだけのことだ。


女生徒が一層頬を染めてはにかむ。
バクラの顔が女生徒に傾いた。


いや…いやだ………
やめろ バクラ


二人の顔が重なる。

マリクの思いは、声に乗せることができなかった。






「はぁっ…ハ…ハァ………は………ッ………は…」

ベッドの上でうずくまり、マリクは痛みの治まらない胸を必死で押さえつけていた。
あの後、気付いたら玄関に突っ立っていた。
そしてそのまま自室に向かい、電気も点けずに崩れるようにしてベッドへと倒れこんだ。

確か、バクラと女がキスしたのを見て…それからどうやって帰ってきたんだっけ…
マリクの頭の中には学校から家までの記憶がなかった。

キス。
その言葉で先程の光景が鮮明に甦ったマリクに新たな痛みが生まれる。
身体中を突き刺す鋭い痛みに呻き、耐え切れず自分の身体を抱きしめた。
頭は痛みを通り越して凍ってしまったかのように冷たく痛んでいる。
手の色が変わるほどシーツを握り締めるマリクは、声を出してしまえばすぐにでも嘔吐してしまいそうだった。


バクラだって男だ。男が女を好きになって何がおかしい。
好きだと言われて。
愛していると何度も言われて。
ボクは酔わされていただけだ。
そうだ。今までの日々こそが狂っていたんじゃないか…。



流し続けた涙で濡れたシーツに顔を埋め、マリクは嗚咽しながら帰国を決意した。






ガチャッ
ガタタ、ガタン、ガコッ
物騒な音が明かりの一つも点けられていない部屋に響く。

「ハッ、クソッ、あと四十分もねェじゃねえかッ」
バクラは邪魔だと言わんばかりに、体に纏っていた飾りとブーツを脱ぎ捨ててある一室に向かった。


「マリク、いるんだろ?」

ドアの前に立ち声をかける。
しかし物音一つすら返ってこない。
人の気配は感じるのだが…。
拗ねてんのか、とバクラは咳払いを一つしてドアノブに手をかけた。

「悪ィ、遅くなった。ハッピーバースディ、マリク」


ガチンッという音にバクラは舌打ちする。 マリクの部屋のドアは、堅く閉ざされていた。





「マリク。何鍵かけてやがんだ。開けろよ、オイ」
「…………」
「遅くなっちまったことは謝る。でもな、オレ様だって宿主が酔いつぶれてようやく表に出て来れたんだぜ」

肌に張り付く服に手で空気を送りながら、なぁ、と声をかける。

「拗ねんなよ、まだ今日は終わってねえだろ。今から祝えばイイじゃねえか」
「………」
「愛してるからよ、なぁ」

ここで痺れを切らして声を荒げてしまえば状況が悪化するかもしれない。
そう思ったバクラは出来るだけ甘い声で諭すように言った。
少しの間の後、ドアがみしりと揺れた。

「もう、頼むからやめてくれ」
「マリク…?」

扉の中から聞こえてきたのは恐ろしく低い声だった。
もう一度愛の言葉を囁くと、ドン!と壁に掛けてあったカレンダーが落ちてしまうほどドアが強い音を立てた。

「やめろって言ってるだろッ?!!」
「な、に、怒ってやがんだよ…っ」
「煩い!うるさいうるさいうるさい!!!黙れよもう!!」
「おい!マリク!」
「黙れって…!言ってるだ…ろ、ぉ……!!」

言葉の最後は消えかかっていた。
マリクはその場に崩れ落ちて力無く首を振る。
中の様子が全く分からないバクラはどう声をかければいいのか、眉を寄せて困惑した。

「どうしたマリク、何かあったか?」
「たのむからっ…もう、ボクの名前ッ…呼ぶな…!女のトコ、行ってやれよ…っ!」
「お前、何泣いて…つーか女って何のことだ?ワケ分かんねこと言ってんじゃねえよ」
「嘘、つくなよッバカ……この目で見たんだ、からっ……は、ハハッ、貴様は酷い男、だからな…優しくして、やれ、よ」

涙声のマリクの言葉に、はっとする。
もしかしてコイツは―――

バクラは軽いノックをして汗の引きかけた額をドアに預けた。

「開けなマリク」
「いや、だ…ッ」
「マリク、開けてくれ」
「……ッ、ふ…………ぅ…」

カチリと解錠の音が鳴る。
ドアノブをゆっくり引くと、今度はドアはバクラの手を拒まなかった。
部屋に入ってすぐの所で床に手をつき俯いていたマリクの肩はひくひくと動いている。
わざとらしく溜め息を吐くと、その肩は大きく跳ねた。
バクラも床に座り、震える柔らかい髪を撫でようとするとマリクが触るな、としゃくり上げながら頭を振った。
しかし構わず指を通す。

「なに、お前学校来てたのかよ」
「ふっ、う………く」
「テメェなぁ…何で来たのかは知らねえが、こそこそ覗き見すんなら最後まで見て帰れよ」
「っ!!ボクはッ他人がキスしてるのを見るような趣味はないっ!」
「オレ様がキス?あの女とキスしてたってのか?」
「してただろ!しかもっ…貴様からしてたじゃないか…」

バクラは仕方ねぇな、と眉を下げる。
嫌がるマリクを起き上がらせて、涙で顔に貼りついた髪を剥がして耳に口付けた。
柔らけー髪してるよなぁ、とバクラは喉の奥で低く笑った。

『オレ様にはもう相手がいるんだよ。これ以上付き纏うようなら女だろうが容赦しねェぜ』

耳元で囁いてきたバクラにアイラインにキスを落とされ、マリクは愕然とした。

「う、そだ」
「宿主がなぁ、あの小娘に前から何度も告白されてたらしくてな。なんとかしてくれって頼まれたんだよ」
「じゃああの時」
「そうだ、今みてぇに耳元で脅してやったんだよ。無様に泣きながら逃げ帰ってったぜェ。ヒャハハハハ!」
「だッ、て、バクラっ」

「やっとオレ様の名前、呼んでくれたなあ」
「……!……うっ…」

恋人がそんなことで傷付いてくれたのが嬉しくて。
恋人が自分の名前を呼んでくれたのが嬉しくて。
恋人の誕生日に会えたのが嬉しくて。
何もかもが嬉しくて思い切り抱き締めると、マリクが堰を切ったように泣き出した。

「ばくぅっバク、ラ、あッ、うぐ、うぅっ、ひ、あ…!あ゛ぁッ……!アァアアアッ…!!!!」
「あと二十分もねぇけど、お前に会えてよかったぜ。つーか今日中に帰れたことが奇跡だ」
「うあああッ、あう、うああ!ううッ、ひぃ、ひぐっ、うぁあああッ!!!」
「社長の家からここまで、どれだけの距離があるか知ってるか?」
「えっえぐっうええっ!げほッ、うあっばくぅ、ば、ば、ばくっ、ばくらぁ!!」
「愛してるぜマリク。だからな、もう泣き止め」

泣き続けるマリクの背中撫で擦りながら、バクラは亜麻色の髪にキスをした。

暫くして落ち着いたマリクの瞳は酷く充血しており、目元も赤く染まっていた。
堪らなくなってマリクを姫抱きにしてベッドに下ろす。

「ハッピーバースディマリク」
「ひっ、ひっ…く、バクラあ」
「あと十分しかねぇけど、どうする?」

ちゅっ、ちゅ
ちゅ、ちゅ、ちゅう

「どうするもなにも…結局セックスかよ……ッていうかっ終わる頃には日付変わってるじゃないかっ」
「セックスって言うと聞こえが悪ィから大人の祝い方って言いな。あとなぁ、寝て朝陽見るまでは今日なんだよ。ヒャハハ」
「何だそれ…ハハッ、…はあ……も、どうでもいいや…」



「ああッそうだ、マリ、ク」
「んっンアアッ、は、ひアッ、な、にッ?」
「クッ、ふ…宿主に、も、テメェの誕生日、言っといた方が…ツッ…!いいかも、なァ……!」
「あぁアッ!あぅ、ン…そう…だなっ……」

ギシギシとベッドを軋ませ鳴き声を上げながらマリクはバクラに抱き付いた。

「ハッピーバースディ、マリク」





□ □ □ □ □ □ □


翌朝、昨日が自分の誕生日だったことを獏良に伝えると獏良は声を上げてわんわん泣き出した。
いや、言わなかったボクが悪いんだし。と苦笑しながら言うと、
ごめんね、ごめんねマリ君、大好き、お誕生日おめでとう、と泣きながら抱き付いて何度も謝ってきた。
じゃあ今日はマリ君の誕生日とクリスマスパーティを併せて目一杯祝おうね、と涙を拭った獏良は大急ぎでケーキを作り出す。

「来年からは絶対っ!十二月二十三日は四人でお祝いしよ。ね?」
「ああ……ありがとう、獏良」
「ふぅッ…ほんとに……ひくっ…ほんとにごめんねぇえええ!!!」
「あっ、ば!獏良ッもう泣くなよっ!わ゛ーそれ塩だぞ塩ッ?!!」



チャリン
『ほらよ、誕生日プレゼントだ』
『あ……ありがとう…キーリングか?紫の…なんだこれ』
『アメジスト。テメェの目の色に似た石だ』
『…………キザかよ』
『これからも愛し続けてやるぜェ?マリクちゃん』
『ッ!疲れたからもう寝るっ!!!』


マリクのボトムスに付けられたそれは朝陽を受けて輝いた。
中に彫られた文字にも光が当たり眩しく煌く。


【 I need you 】



[HAPPY BIRTHDAY 12/23]




2008年頃に書いた初マリク誕生日小説でした。
女生徒を怯えさせたバクラはあの後宿主に「言いすぎだよバカ!」と怒られます(笑
昔のデータを見ながら打ち込んだんだけど、どうしてマリクも社長宅パーティに誘ってあげなかったんだ宿主…!