消える心2





「──…今…何時だぁ?」



ガリガリと髪を乱雑にかきながら周囲を見回すと静かな闇に包まれていた。

(そういや帰ってきてそのまま寝たんだっけか)



霞がかった頭で自分の行動を思い返しベッドから身体を起こす。
まだ意識がはっきりとしておらず、おぼつかない足取りでドアへと向かった。

「オイ起きろよ宿主…クソッ、今日の晩飯オレ様の番か。…マリクお前何食いてえ?」
ノック無しに部屋に入るがそこにマリクの姿は無く。
静寂の家にはバクラがいる廊下以外、どこの部屋にも電気がついていなかった。

「なんだ?アイツ外にでも出てんのか」


人の気配が感じられないバクラは仕方ねぇ、作って待っておくか、とリビングのドアを開けた。






はぁ


はぁ




「あ?」

暗闇から微かに聞こえてくる荒い息遣い。
バクラは手探りで照明のスイッチがある場所に手を伸ばす。


「ん…ん、ふぅ…あっ…バクラぁ?」

「マリ、ク…?」


バクラは自分の目を疑った。
そこにいたのが下半身裸で横這いになり白濁まみれで自慰に浸っているマリクだったからだ。



「や、いやだっ見るなぁっ…」
言いつつも自身を扱く手は止まらない。
硬く勃ち上がったペニスが上下に擦られる度に粘着質な音がマリクの荒い呼吸に重なる。
初めて目にする恋人のあられもない姿に寝起きながらも股間に血が集まってくるバクラだったが、何故こんなことになっているのかすぐには分からなかった。
「うっんっんっ」
マリクの顔の傍に転がっていた一本の小瓶。
そこでようやく昨夜の出来事を思い出す。


「お前その瓶」
「ふうっンン、あ…ごめ、のど、乾いて、んっ!冷蔵庫、に、あったから、飲んじゃっ、た……」

目につかない奥の方に置いた筈だったんだが、とバクラは頭を捻るも、眠たくて仕方がなかった就寝直前の記憶は戻ってこない。
自慰に夢中になっているマリクに近付いて腰を下ろしキャップの外された瓶を手に取ると、口から薄桃色の液体が一滴垂れた。
中を覗くと底に少量しか残っておらず、バクラは意地の悪い笑みを浮かべてマリクを見た。

「なに人のモン勝手に飲んでんだよオイ」
「だか、ら…はぁっはぁっん…謝ってる、だろッあはぁっ…!」
「シコりながら謝るっつーのがお前の謝罪の仕方なのか?」


淫猥な吐息を漏らす恋人の、汗で額に張り付いた髪を剥がしながらバクラは嘲笑う。
それでもマリクは肉竿を手で作った筒でじゅぶじゅぶ扱き上げていた。
電気に照らされた明るい部屋で、自分がこんなにも近くにいるというのに、恥ずかしがる素振りは見せるものの止めないのか。
普段からは到底想像できないこの現状を目の当たりにして、薬の効果は本物だったとバクラは内心ほくそ笑んだ。

「だっ…て、出しても出してもっ身体が…熱くて…んんっ!」
「こんなに床濡らしちまってよぉ…誰が片付けると思ってんだ」
水溜り、といっても過言でない程大量の精液で濡れたフローリング。
そこに接しているマリクの腰から右太腿は溜まった体液で濡れ、マリクが身体を動かせばその都度肌と床が擦れあってにちゃにちゃと情欲をそそる音が鳴る。
バクラの下半身はとっくに張り詰めていた。

「こりゃオシオキが必要だな」
「あ!やめろよっ!!」

わざと大息をついて淫液に濡れた左手首を掴んで捻り上げた。
自慰を無理矢理中断させられマリクはバクラの手を振り解こうとするも身体を仰向けにひっくり返されてしまう。
そのままバクラは褐色の右手を自らの左足で胡座をかくような格好で押さえつけ、更にすらりと長い艶めく右太腿を右足の裏で踏みつけた。


「どけっどけろよバクラ!あっやだっ、イきたいっ」
「煩ぇ」


動きを封じられ喚くマリク。バクラは硬く勃起したペニスに指を絡ませた。
そしてそのまま上下にゆっくり擦る。

「っひ、あ…?……ぁ…ば、くら…バクラぁ…!」

予想外だったが望んでいた刺激にマリクは歓喜の声を上げ、もっともっとと強請るように身体をくねらせた。



「気持ちイ、あ……バク、あ、だめ、や……ひ…はぅ…」

快感に、意味のない言葉ばかりを吐き続ける。

「なんだ?イきてぇのかよ」
「ん…!うんっイきたい…はぁっイかせてくれ…!!」


ぐり、とカリ裏に爪を立てると太股を震わせ解放を強請りだす。
バクラは悪意の篭った笑みを浮かべた。
「いいぜ……じゃあもっと強請れ。懇願しろ。オレ様がイかせてもいいと思えるくらいに」
「ふうっ…バクラ、頼む、イかせて…くれよっ」

腹筋をびくびくさせながら潤んだ瞳で、見下ろしてくるバクラを見つめる。

「そんなんじゃ駄目だな」
「ふっ、ばくらぁっ」


媚薬で異常なまでに快感が増しているマリクだったがまだ理性は残っているのか、顔を緩く左右に振りいやいやとする。
だが性器から手を離し太腿や腰を撫でるだけの愛撫にとどめると観念して口を開いた。



「頼むから…っボクの勃起した…チ…ンポ、ぐちゃぐちゃに擦ってイかせてっ気持ち良く、なりたいっ」


似つかわしくない淫らな言葉と、それと共に溶けた瞳から送られてくる熱っぽい視線にバクラの目がぎらりと光った。

「やれば出来るじゃねえか。ほらよ、ご褒美だ」
「ああああああああっ!!」

ぬめる屹立したペニスをザッシュザッシュと手加減なしに擦り上げると甲高い声が上がる。
快感にマリクは腰を浮かせ、待ち侘びた刺激を受けてどっと愛液を滴らせた。


「あっあ、い、はぅ…!」
「マリク」
「っばく、バクラ!イっイ…く……!」
「イっちまえよ…」

トーンを下げたバクラの声も、酷く熱を帯びていた。



「ひっ……あ…ああ…っ!!!」
びゅくくっビュルビュルビュルッ!どくんっ!!




「気持ち良かったか?」
「ン…アぁ…うんっ…」

虚ろな瞳は何処を見つめているのか。大きく胸を上下させ呼吸を整えるマリク。
勢いよく出た精液はバクラの手の中に。マリクの震える腹にも僅かに飛んでいた。


「ばくらぁ……」
戒めていた腕と足を開放してやると、甘える子供のようにぎゅうっと抱きついてくる。
少々苦しい体勢だったため片手でマリクを起こして互いに膝をついて向き合うと、それこそ上半身が隙間なく密着してきた。

「バクラ」

骨が溶けてしまいそうなほどに甘い、自分を求める視線。




今まで見てきた中で、コイツは文句なしに最高の財宝だ。


バクラはマリクの、感情が篭っているのがありありと分かるアメジスト色の目が好きだった。
特に情交によって濡れている時の瞳は格別だ、と。
喉から手が出る程欲しくて抉っていつまでも舐め回していたいと思ったこともあった。
実際そんなことを愛する相手に出来る筈がなかったが、セックスの最中、快楽の所為で流れる涙を舐め取るふりをして濡れた眼を舐めたことは片手では数えられないほど。

最中に気付かないマリクに後で言ってみると、どうやらその事は覚えていないようで顔を真っ赤に染めて絶叫していた。



「バクラ…?」
「ん、あぁ、何だ?」

マリクの声にはっとし、抱き着いてくる細い身体を強く抱き締めた。
背に刻まれた碑文に先程吐き出したばかりの精液を塗り付けると、感じ入った吐息を漏らす。

「ふっ…!あ、はあ……ッ」
「可愛いぜ、マリク」
「熱いっ…からだッ、まだからだがあついよぉ…!!ん、ああ〜っ…!」

性感帯をなぞられガクガクとマリクの身体が快感に震える。
熱い熱いと助けを乞いながら、また勃ち上がり始めた陰茎をバクラの股間にぐりぐりと押し付けてきた。
膨張した箇所への刺激にバクラの雄の本能が引きずり起こされる。

「マリクッ」
「あむっンんん!!」
火照った体躯をかき抱いて唾液でいやらしく濡れそぼっていた唇にかぶりつく。
舌でこじ開け歯列を舐め、奥に潜んでいた肉舌を絡めとるとマリクの長い舌はバクラの誘いにのってすぐに絡み付いてきた。
完全に重なり合った唇が少しでもずれるとくちゅくちゅと音が漏れる。
その音もまたバクラの興奮を煽り何度も顔の角度を変えた。

これ以上潜り込めない所まで舌を伸ばしマリクの舌根を尖らせた舌で押す度に腕の中の身体が跳ねる。
暫く吸い付き合っていると服を着ているにも関わらず胸に感じる二つの突起物。
それに気付いたバクラは破る勢いで服を脱がせた。
突然ディープキスを止められたマリクは呂律の回っていない口で何か言っていたが、バクラは構わず誘惑してくる硬くなった乳頭にむしゃぶりついた。