マリク誕生日


「はあ…美味しかった…」
「そりゃよかった」

ハーッと息を吐くと真っ白くなるほど寒い夜。
けどボクの腹が十分に満たされてたからか、酒のおかげか、そこまで寒さは感じなかった。

「でも驚いたな。あんなところで食事ができるなんて」
「宿主のおかげだぜ。後で礼言っとけよ」

いつもの調子でニヤリと笑ったバクラもボクがやったように空に息を吐いた。



今日…いや、日付が変わったから昨日か。12月23日はボクの誕生日だった。
いつものように昼に目を覚ましたら、先に起きてゆっくりしていた獏良に祝いの言葉と一緒に抱きつかれて。
その後一緒に昼食をとって、街に出て沢山買い物をしたんだ。
君の誕生日だから、って獏良が言うから、色々買ってもらっちゃったんだけどさ…。

日も暮れてきてそろそろマンションに帰ろうとしたら、急に出てきたバクラに腕を引かれて、質問に答えてもらえないままボクはビルの最上階まで連れて行かれた。

「ボク達の後に何人も来てたのに入れてもらえてなかったもんなぁ…あのレストランかなり人気なんだな」
「宿主の親父がここのオーナーと知り合いじゃなきゃオレ達だって入れてねぇよ」

夜景が最も綺麗に見える特別席、に案内されて、バクラからその日初めて「ハッピーバースデイ」と言われグラスを合わせた。

「それにしても…」
「ん?」
「なんだか落差が凄いよな、その帰り道でコンビニでアイス買うなんて」

手に持ったビニール袋をガサガサ鳴らしてボクはおかしくて笑ってしまった。
「テメェが食いたいっつったんだろーが」
「あはは、でもさ、おかしいってコレ、あはは!」

無性におかしくてケラケラ笑うとバクラがボソリと「たった一杯で酔いやがって…」と言ったのが聞こえた。
いいじゃないか別に!!
…あー…頭がふわふわしてなんだか気分がいい。横断歩道の白い部分だけを大股で歩いてみる。

「…楽しそうだなオイ」
「うん楽しー…ってなんだよその顔は!」

くるりと振り返ってバクラを見ると物凄い呆れ顔。流石に頭にきた。叩いてやろうと思って近付いたら、あれ?


「ケガでもしてェのかマリク。ふらふらしやがって」
どうやらボクは足がもつれたみたいで、バクラに抱き留められていた。
うーん…そんなに酔ってるのかボク。

「ほら、しっかり歩け」
「うるさいなーバクラぁ」
「ったく…丁度いい、あそこで休むか」

呆れ声のバクラと一緒にふらつきながらボク達はどこかの会社のビルの駐車場に入った。

「とりあえず壁に背中預けとけ」
「でもさーバクラ」
「…なんだよ」
冷たいコンクリートの壁にもたれて休むっていうのもよく考えてみるとおかしくて、また笑いがこみ上げてくる。

「意外だったな、バクラが誕生日にこんなことしてくれるなんて」
「なんだよ、じゃあなんだったらオレ様らしかったんだぁ?」

隣で一緒に壁にもたれていたバクラがボクの前に立っていて、思わず唾を飲み込む。
ニヤニヤ笑いながらボクを見てくるバクラの目が、すごく、いやらしくて…

「お前のことだから、その、いつもみたいに、せっセックスかなって、んっ」
言い終わる前に口を塞がれた。
ぬるついた舌が口内に入ってきて、ボクの舌に絡みついてくる。はぁ・・・ぬるぬるしてあったかくて…

「んん…あむ、んむ…」
「クッ…やーらしい顔しやがって」
「だってッんんぅ」

ぐちゅ、れる、れろ
ボクの口の中でぐちゃぐちゃとくぐもった音が。
うう…気持ちいい……

「はァ…いつもセックスばっかで悪かったなあ」
「べっ別にそういう意味じゃ」

バクラの膝がボクの脚の間に割り込んでくる。

「確かにいつもマリクとヤりてェとは思ってるけどな」
「ストレートに言うなよっ…」

本当に何言ってるんだ!!は、恥ずかしくないのかこの男は!!
目を細めたバクラはボクの耳に舌を這わせてくる。あ、くすぐった、

「全部テメェが悪いんだぜ?」
「なに、言って」

ちゅ、ちゅ、と触れるだけのキスが耳に、頬に、瞼に。身じろいでみるけどそれは何の意味もない行動で。
分かってるのか、バクラはまたクッと笑った。

「テメェ見てるとな、勃っちまうんだよ…ホラ」
「んっ」

股間を押し付けられて、硬いアレが当たる。細い指がボクのベルトを外して…ん、ちょっと待てよ
コイツまさか

「ば、バクラ!」
「ぁア?」
「お前もしかしてここでする気か?!!」
「…なにか問題あんのか?」
「大ありだ馬鹿!!外だし冬だしアイス溶けるだろっ!」

なんてことだ、雰囲気に流されそうになっていた。
酒のせいで頭がフワフワしてたけどよく考えてみたら外でこんなことしてたら誰に見られるか分からないじゃないか!
なんだかぼやけてたようやく頭がはっきりしてきた。

「冬で外ならアイスも早々溶けやしねーよ。それにお前だって喰いたいだろ?」
「何をだよ!」


『オレ様の熱ーいチ・ン・ポ』

「あっ…馬鹿っ……!」

『なぁ…一緒に熱くなろうぜマリク…』

クソっ!!そんな低い声で楽しげに囁くな変態っ!
腰がじくじく痺れてきて、力が入らなくなって、ボクの股間を揉んでくるバクラの手を外すことも出来ない。
見つめてくるバクラの目はギラついていて欲情してるのが凄く分かる。
ついさっきこんなことしたら駄目だって思ったばかりなのに。
どうしよう…こんな夜中だし誰もいないし……一回くらいだったら…

迫ってくるバクラと唇を合わせることで返事をした瞬間、



「うわっ!?」
「ああ?」
「そこで何やっとるんだ!」

大声と共に突然眩い光に照らされて目の前が真っ白になる。
何秒かして見えるようになってきた視界の中にいたのは、青い制服に身を包み懐中電灯を持った初老の男だった。
ボクは反射的にバクラの胸を押し距離をとってしまい、警備員であろう男から顔を背ける。

「なんだよジイさん。これからって時に邪魔するんじゃねェよ」
「君達こそなんなんだ!ここは会社の敷地なんだから入っちゃ駄目じゃないか」
「ウルセェなあアンタ…」
「バクラッ!もう帰るぞ!」

バクラの声がどんどん不機嫌になっていくのが分かって、慌ててバクラの腕を掴む。
「おいマリク。このジジイはオレ達が今まさにセックスしようとしてたところを妨害してきたんだぜ?」
「ばッ…〜〜〜〜〜ッ!〜〜〜いいからもう!」


こっのっおっとっこっだけは…〜〜〜!!!なんで他人の前でそういうことを平気で言えるんだ!
警備員も口開けて驚いてるじゃないか!

「お前はよくてもオレ様はよくねぇんだよ。触ってみろよコレ。コイツはどうすりゃいいんだ」
「なっ…〜〜〜!!」
「じゃあ家帰ったらヤらせてくれんのかよ?」
ニヤニヤ笑うバクラ。…この男、楽しんでるんだ。ボクが「うん」って言うまでずっとこの調子が続くだろう。
心底思う。…性格悪すぎだ!!!


「…分かったよッ」
「ん?好きなだけハメていいのか?」
「ッッッ!!!…何回でもすればいいだろ!だからさっさと帰るぞ!!」
「つーワケだ。良かったなジイさん、マリクのお陰でアンタまだこの仕事が続けられるぜ」

もうヤケクソだった。
満足げなバクラの腕を掴んでボクは足早にその場を後にした。







「あーもーあ〜〜〜も〜〜〜〜っ!!!脳ミソ腐ってるのかお前!」
「そう怒んなよマリク、可愛い顔が台無しだぜ?」
「うるさいっ!」

恥ずかしさと怒りで頭の中が煮えててバクラが喋るだけで苛々してくる。
ボク達はいつの間にかマンションのすぐ近くまで帰ってきていた。

「悪かったって」
「……知らない」
「ちょっと止まれよマリク」

引っ張っていたバクラがいきなり立ち止まりボクはその場で無理矢理止まらされてしまった。
痛いんだよクソ!
後ろを向いてキッと睨みつけると、そこにはいつになく真剣な目でボクを真っ直ぐ見つめてくるバクラがいた。

「悪ぃなマリク…オレもたったあれだけの酒で酔ってたみてェだ」
「………」
「嬉しかったんだよ、お前の誕生日に一緒にいられたのが」
「…バクラ」
「調子に乗って悪かった…でもお前が好きで堪んねぇんだ、許してくれよ、なぁマリク」
「バクラ」

ぎゅ、と抱き締められて思わず頬が緩んでしまう。
馬鹿だなバクラ…もしかしてボクに嫌われたとでも思ったのか?
確かにかなり頭にきたけど大体あんなのいつものことだし、あれくらいのことでボクがお前のことを……

「いくら夜中だからってこんな大通りの場所でやめろよ」
「マリク」
「とっとと帰るぞ………その、したいんだろボクと」

さっきと同じように腕を掴んでボクはバクラの前を歩く。もう酔いは冷めて頭はすっきりしていた。
多分、いや確実に帰宅後はバクラに思う存分愛されるんだろうけど……
折角誕生日だったことだし、たまには恥ずかしがらずに…乱れてみてもいいかな。バクラもきっと…喜ぶだろうし……ん?



「…あ!」
「どうした?」
「アイス!!!」









「あーあの子達折角買ったもの忘れて行って」
警備員は腰を曲げコンクリートの地面に落ちていたビニール袋を持ち上げ溜息をつく。

「しかし今の若い子ってのは大胆だねえ…こんな場所でしようとするなんて」

呆れはしたが、しかし美形の若者二人が抱き合ってキスをしていた光景はしっかりと脳裏に焼きついてしまっていた。
他人の絡み合うシーンなどビデオでしか見たことのなかった警備員は、顔がニヤついている。

「…いかんいかん、年甲斐もなく。仕事中だ」
冷たい夜の空気に肩を震わせながら、警備員は巡回に戻ったのだった。





「(……ん?そういえばあの二人…どっちもズボンが膨らんでたような…)」


【END】 

2012.12.23誕生日おめでとうマリク!