未来を誓う錠と鍵





「〜〜〜…もう疲れた!!」
重い足をまた一歩前に出しながら、疲労を訴えるマリク。額には汗がじんわりと浮かんでいる。
「ぁあ?行きてぇっつったのはテメェだろうが」
「そっ…それは……そうだけど……」
前を歩くバクラに振り向き様に指摘され、マリクは、うぅ、と呻りながら眉を寄せた。

先日とあるテレビ番組の特集で流れた夜景映像。テラスからの大パノラマには夜の街の光が煌々と輝いており、画面越しのたった数分でマリクの心は奪われてしまった。
一緒にテレビを見ていたバクラに面倒で断られるのを承知で「行きたい!見たい!」と駄々をこねたところ、おもむろに携帯電話で時刻表を調べたかと思えばすんなりと受け入れてくれたのだった。


「でもっ、はあっハァ、こんなにも急な坂があるなんてっ、んっ、言ってなかったっ…それにっ…雨で地面濡れてる、し……っ!!」
疲労に美貌を顰めはぁはぁと息を荒げながら愚痴を零す。山の斜面に作られた木の階段は角度も高さもばらついており、若い体力を容赦なく奪っていく。
更に午前中降っていた雨のせいでぬかるんだ地面や苔や濡れた落ち葉で所々滑りやすくなっており、一段一段注意を払って上らなければならなかった。
「クソッ……地獄って……こういうことを言うのかっ…!」
エジプトにいた頃は陽の光の射し込まない地下生活を送り、入り組んだ地下内部は部屋数こそあれど一室一室の広さが無かったので満足な運動などしたことがなかった。リシドと家を飛び出しグールズの総帥となってからも、移動手段はバイク、リシドの運転する車の助手席、大型クルーザーなど己の体を使うことは一度もなかった十六歳の少年マリク。
こんなにも辛い思いをするなら行きたいなんて言うんじゃなかった!と自らの発言を悔いながら肩を上下させつつ前方のバクラを見上げると、涼しげな顔がいつの間にかこちらを向いていた。
「喜べマリク。もうすぐだぜ」
「ほ、本当、かっ…?!!」
バクラの言葉に十メートル程先を見ると、鬱蒼とした木々が無くなりコンクリートの階段と、それを上っていく人の姿。
ぱあっと顔を明るくしたマリクは最後の力を振り絞り乳酸のたまった重い足を動かした。




「はあ…はあ…」
短い階段の後、辿り着いたと思ったらそこは螺旋状に作られた緩勾配のスロープだった。
しかし山中の斜面よりはるかに上り易い造りになっていたので、文句を飲み込んでバクラについて行く。
そしてようやくテラスへと辿り着き、マリクは思わず、わぁ…と感嘆の声を洩らした。
「すごい………すごいな……!」
前方に広がる、夜に浮かぶ一面の光の海。初めて目にする幻想的な街夜景。テレビの映像で見たのとは別物だ。
いや、景色自体は同じなのだろうが、結局どんな高性能な機械を使っても、肉眼で感じ取る感動には適わないということだ。
マリクはアメジスト色の瞳を輝かせ、瞬きをすることも忘れて煌びやかな光の集まりに夢中になった。


(それにしても)
興奮もやや治まってきたところで改めて周囲を見ると、マリクはある違和感に気付いた。
(なんだかここ…やけにカップルが多いな…)
百万ドルの夜景が見られるこの場所に居るのは、身を寄せ合いいちゃつくカップルばかりだ。偶然なのかも知れないが家族連れはどこにも見当たらない。そして…中にはいい雰囲気になったのかキスをしている者も。
これにはマリクも恥ずかしくなり居心地が悪くなってくる。
「っバクラ、夜景は楽しめたからもう行こう」
周囲のしっとりとした、色で言うならピンクなムードに耐えられずマリクは家路につくことをバクラに訴えた。
「何言ってやがる、これからがメインだろうが。ほら、行くぜ」
「メイン?オイどこに行くんだっ、こっちは来た道じゃないぞ?!」
バクラの言葉が理解できずに頭に疑問符を浮かべているとぐっと手を引かれ、マリクが思っていた道とは反対へと歩いていった。
帰るのならば来た方向、つまり下っていかなければならないのにバクラはテラスからもう一方に伸びたスロープを上っていく。
数メートルのスロープと階段を上っていくと視界が開けた。そこには不思議な形をした建造物がライトアップされており、カップル達がその中央の建造物に集まり何かを行っている。

「な、なんだここは……ん?」
何がなんだかさっぱり理解できないでいると、自分たちより後に上ってきたカップルがベタベタとくっつきながら、やはり曲線を描く謎の形の建造物へと向かっていく。
男がポケットから金色に光る小さな物を取り出し、嬉しそうにはにかむ女と共に赤と青のフレームの間に張り巡らされたワイヤーにその小さな物を取り付ける。そしていちゃつきながら石畳のベンチへと移動していった。
「なあ、あいつら一体何してるんだ?」
カップルの謎の行動にマリクの口から疑問が零れる。
「説明するよりテメェの目で見たほうが早ェだろ」
「わっ、バカ!手を離せっ!!!」
人目を気にして手を振り解いたマリクはチッと舌打ちするバクラを無視し、カップルの数が幾らか減ったタイミングで、照らされる建造物へと向かった。
フレームとフレームを繋ぐ太いワイヤー。そこにぶら下げられていたのは、とんでもない数の大小さまざまな南京錠。
先ほどのカップルが取り付けていたものが分かったものの、それにしてもなんでこんな所に?と首を傾げると、その南京錠にはどれもこれも油性ペンで文字が書いてあった。
「何が書いてあるんだ?…え………なッッ………???!!!!」
一番近くにあった南京錠を手に取り文字を読んだマリクは愕然として、外側で待つバクラへと顔を向けた。
白銀の髪の男はニヤニヤと、それはもう楽しそうにニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべていた。
「〜〜貴様っ!これはどういうことだ!!!?」
慌ててバクラの元へと戻って問い詰めれば、肩を竦めて鼻で笑われてしまう。
「どうもこうもねえよ。さっきの夜景よりこっちが目的の奴らの方が多いんだぜ?この愛のモニュメントに南京錠をかけて恋人達が愛を誓う、超有名なデートスポットだ」
「……!」
「まあ夜景の映像が終わってすぐ便所に行っちまったテメェは知らなかったかもしんねえけどなぁ?」
(こっ…コイツはッ…〜〜〜〜!!!!!!!)

南京錠に書かれていた文字。それは、愛する恋人達が互いを想って綴った愛の言葉。
隣も、その隣の南京錠も。恐らく全ての錠に書かれているのだろう。
そんなに有名なデートスポットだと知っていたら行きたいなどと言わなかった。自分は映像に惹かれて夜景を見に来ただけなのに、これではバクラとデートをしに来たみたいではないか。
だからこの男は嫌がることなくむしろ乗り気で時刻表やら調べていたのか!と嵌められたことに気付いたマリクはぷるぷると震えだす。
(デートじゃない!ボクは知らなかったんだからこれはデートじゃない…!!!)
「もういいだろっ!いい加減帰るぞ!!」
かあああっと怒りとは別の感情で顔を赤くしたマリクは顔を上げてキッとバクラを睨み付けた。
なのにバクラは心底楽しそうに、くつくつと笑いだす。
「だからまだメインが終わってねえだろうがよ」
「これ以上何があるって言うんだよ!もう何も無いだろ!!!」
「あるだろうが。他の奴らがしてオレたちがしてないことが」
「はぁ??!!!」
ジーンズのバックポケットへと手を伸ばしたバクラが、取り出した物を見せ付けるようにして持ち上げてきた。
獏良了の肉体――白い指先に引っ掛けられて輝くのは、つい先ほど見たばかりの物と同じ形状の物。そして、にんまりと笑うバクラ。瞬時に理解したマリクは全力で首を横に振った。
「か、書かないからな!!ボクは何も書かないからなっ!??ていうか帰るって言ってるだろ!!先に帰るからな!!!!」
「へえ、テメェ一人で帰れんのかよ?」
「ぐっ……!」
「お前が素直に書いてくれたらオレ様も気持ち良く帰れるんだがなぁ?」
いつの間にか手に持っていた細身の油性ペンで何かを書き始めるバクラ。さらさらと書き終え、手を取られ抵抗する間もなく金色の南京錠とペンを渡される。
一体どんな恥ずかしい言葉を書いたのか。恥ずかしさに褐色の身体を固まらせて恐る恐る錠を見た。
「ッ……!……え」
表面に書いてあったのは今日の日付とバクラの名前だけだった。
もしやと思い引っくり返して見てみるが、裏面には何も書かれていない。そして側面も同様、他の文字は見当たらなかった。
「名前だけならそう恥ずかしがる必要もねェだろ?それにほら、見てみろよ。こんな場所に長居するほうが恥ずかしいんじゃねえの?」

バクラに促されて周囲を見る。南京錠をかけ終えこれ以上ないほど良い雰囲気になり、二人きりの世界に浸っているカップルばかりだ。
加えて随分前から、男女のカップルばかりの場所に男二人でいるせいか、色々な方向から視線を感じていた。
…ああ、一刻も早く帰りたい。この、四角い南京錠の左側に書かれたバクラの名前の隣に、自分の名前を書きさえすればそれが叶うのなら―――――

意を決したマリクは素早く、しかし控えめな文字で右側に名前を書き、ペンと南京錠をバクラへ叩きつけるようにして渡した。
「さっさと帰るためだからな!?」
「クク、二人で付けに行くか?」
「〜〜〜誰が行くかっっっ!!!!!!」
意地悪い笑みを浮かべるバクラに顔を背けると、「ならここで待ってな」とバクラはモニュメントへと歩いていった。

(ホントにアイツはっ!バカじゃないか?!)
エジプト人特有の褐色の肌は、十六歳という若さだから、という理由では説明がつかないほどの艶やかさと張りがあり、その素肌はライトアップの光に照らされて危うい雰囲気を放っている。
カップル達の視線が注がれていたのは、白銀長髪で冷酷な雰囲気を持つ美少年と、褐色肌で長身スレンダーのエロティックな美少年の組み合わせだったからなのだが、そんなことは露とも知らないマリクは艶やかな肌を紅潮させ憤りながらバクラを見た。
付属の鍵で解錠し、ワイヤーに取り付けているバクラ。マリクは恥ずかしさに視線を逸らし、俯いた。
(恥ずかしい奴……なんでこんなこと……)
形の良い唇を噛んで、マリクは足元に転がっていた小石を軽く蹴った。ここは愛を誓う場所だとバクラは言った。
愛を誓うだなんて行為は、特別な相手同士がするものだ。

(特別な…相手…)

心がくすぐったい。鼓動が高鳴る。
父の死に絶望し、王への復讐のために悪事に手を染めたこともあった自分に、こんな感情が生まれるだなんて。
慌ててふるふると顔を振ったマリクは、とっくに南京錠をかけ終えたはずなのに戻って来ない男を思い出して顔を上げた。
すると目に映ったのは、指の間でペンを回しながらこちらへと戻ってくる満足そうなバクラの姿だった。
「さてと、そんじゃあ帰るとするか………いや、その前に小便してくるぜ。おいマリク、これ持ってあそこで待ってろ。少し前にタクシー呼んでおいてやったから」
「え?あ、あぁ」
マリクの手に油性ペンを渡してきたバクラは鼻歌を歌いながら近くに設置された公衆トイレへと向かって行った。
(…………いや、おかしいよな?アイツなんでペンなんて持ってたんだ…?!)
手の中のペンをバッと見たマリクは考える。
自分が名前を書いて錠と一緒に渡した時、確かにバクラはペンをポケットにしまっていた。
南京錠をかけて戻ってくるだけならわざわざペンを取り出して指で弄ぶ必要など無いはずだ。
……考えられるのはただ一つ。
マリクは急いでモニュメントへ駆け寄って自分たちの南京錠を探しだした。
(これじゃない!これでもない!……あ!あった!)
日付と、バクラと自分の名前が書いてある錠はすぐに見つかった。金色の、手にずしりと重い南京錠。
頼むから何も書いてませんように―――――!

(…………なッ………………〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜???!!!!!!!)
願いながらワイヤーにぶら下げられた錠をくるりと引っくり返すが、願いも空しくそこに書かれていた文字に耳の先まで真っ赤にして固まることとなった。
しかしすぐさま我に帰ったマリクは握っていたペンの太い方のキャップを外して素早く書き足し、モニュメントから逃げるようにしてバクラに言われた場所へと走って向かった。

午後からは晴れると言われていた夜空にはいつの間にか雲が広がり、ぱらぱらと小雨が降り始めてきていた。






「んむっ…んん……はぁ、んうっ…ぁ…ふ…!」
「…ン、はあ、んん」
熱い舌に歯列をなぞられ、上顎を舐められ、マリクの鼻から甘い喘ぎが漏れ出る。
ぬるつく舌。溢れ出る熱い唾液を纏って口内の奥深くで二枚の舌がぐちゃぐちゃと音を立てて絡まり合う。
性感帯である舌の根元を舌先でぐいぐいと押され、指先にまで走る快感の電流に肌を震わせながらマリクは濃厚なディープキスに溶けそうになってしまう。
「んんーっ…!あむっぷあっ…!はっ、はぁっは、は、はあっ……帰るって…言ったじゃないか……」
「はぁっハァ、ハァ……アぁ…?」
「なのになんでっ…ホテルに来てるんだよっ…!」
ちゅる、と舌の交わりが解け、溢れた唾液が唇を濡らす。
マリクは、上に圧し掛かって淫らなキスをしてきたバクラを熱で潤んだ瞳で睨み付けた。

幸い本降りになる前にタクシーに乗り込むことが出来たマリクとバクラだったが、駅へと向かっていたはずのタクシーはなぜか大通りを曲がり、辿り着いた場所はラブホテルの前だった。
当然マリクは抗議した。が、さっさと料金を支払ってしまったバクラに早く降りろと押されて降りてしまったのだ。
帰ろうにも土砂降りの雨のせいで歩いて駅まで行くのは無理だし、次の乗客を探しに行ってしまったタクシーを呼び戻そうにもマリクはタクシー会社の番号が分からない。携帯電話で調べればすぐに分かることなのだが、マリクは調べ方が分からなかった。
そして大雨で気温がぐんと下がり、雨がやむまで駐車場で待つという行為は寒がりのマリクには無理だった。
となるとホテル内に入るしか選択肢がなく、建物内に入れば部屋を借りて入るしかなく、入った途端腕を引かれベッドへと押し倒されキスされてしまったのだった。

「なモン決まってんだろーが」
雨に濡れた上着を脱ぎ捨てたバクラが自身の下唇を舐めながら不敵に笑い、また圧し掛かってくる。
「雨に濡れたテメェをもっと濡らしてェってチンポが疼いて堪んなくてなあ?仕方無ェだろ」
「ばっ、あッ…!?んふ、んん………あうっ?!は、ううっんんんっあッ……!」
象牙色の髪をかき上げられ、首筋に顔を埋めてきたバクラ。肌の香りを吸い込むように嗅がれ微弱な快感に小さく喘いでいると、いつの間にか服の中に潜り込んでいた手に乳首を摘まれ、マリクは甘ったるい悲鳴を上げるしかなかった。
「あっあっぁっ、うう、っふうっやっあっ……おいっやめっバクラ…!!」
「ヒャハハ、ナニをやめてほしいんだ?」
下腹部に押し付けられるジーンズ越しの熱い隆起。硬いソレにバクラがどれほど興奮しているかが分かり、マリクの腰にじくじくとした痺れが走る。
身を捩り逃れようとするも強く抱きしめられているせいで動くことが出来ない。
マリクのペニスもボトムスの中で勃起してきていて、気付かれたくなくて身を捩れば、ヒャハ、という声と共にちゅうっと唇を吸われた。


(ヤバ…い……!)
「あっんっ…んんんっはぁっあうっあっあっあっあっバクッ…あっうあッぁっあっ…!!」
勃起していたペニスに気付かれ、衣服を剥ぎ取られ巧みに扱かれたマリクは一度吐精していた。
射精した白濁を後孔に塗りこまれ舌と指で拡張され、今は後背位で灼熱のペニスを打ち付けられている。
…雨に濡れた所為というのもある。身体が冷えて熱を求めているから。
…久しぶりのラブホテルだからというのもある。いつもは家でしているから。
…本人には口が裂けても言わないが、バクラが巧い所為もある。この男に触られる所は殆どが性感帯になってしまっているから。
しかし今日は、いつも以上に、何をされても、何を言われても……

(こんなの嫌だっ……感じすぎてッ…どうにかなりそうだ…!)
普段のセックスの倍、いや数倍感じやすくなっている身体。
反り勃った性器を挿入されてから既に二回、絶頂の快楽に全身を震わせていた。今も、後ほんの少しの所まできているエクスタシーをぎりぎりのところで我慢している状態だ。
均整のとれた、溜息すら出る褐色の裸体は汗と唾液と精液でぬるつき、室内の照明で淫靡に濡れ光っている。
バクラが触れる箇所、バクラの興奮した呼吸音を拾う鼓膜から快楽の電気が全身に走り、目の前と脳内にちかちかと火花が弾ける。いつもとは明らかに違う己の身体。
…………………原因はマリクには分かっていた。

「あぁっ、あっあっんっんんっうっふぅっ、んっんっんっんっんっ…!」
砂糖を煮詰めたように甘すぎる己の喘ぎ声。自身の声ですら感じてしまっているマリクは、これ以上聞きたくなくて口元を手で覆った。だが、
「なに…恥ずかしがってやがる…」
「っ?!!あ、はあっ……ふ…あ……!!」
四つん這いの体勢を崩され一糸纏わぬ身体を背後からぎゅうっと抱き締めてきたバクラが、嬌声を漏らす口を押さえていた手を剥ぎ取り、背に広がる碑文を舐めてきた。
興奮に掠れたバクラの声はこれでもかと言わんばかりに色気をはらんでいて、更に性感帯の碑文をぬめった熱い舌で舐められ、不意打ちの攻撃にマリクはうつ伏せのままシーツにびゅくりと吐精してしまう。
しかしバクラの腰は止まることなく、緩く、甘く動かされる。
「はぁっ、んっや、やめっバ、クラぁっイってるっイってる、からぁっ…ああっ…!!」
敏感で無防備な射精時に、熱塊でぬちぬちと胎内を擦られる細かな快感と、張った亀頭で前立腺を押し上げられる過剰な快感が身体中に走り、指の先までびくびくと震えてしまう。
「ひゃうっ?!あッ…ひぅ…!…ん、んーっ…あーっ…!」
ちうっ。れる、ちゅるっちゅうっちゅくっ
汗に濡れた背肉を、バクラの熱い舌が舐め回し吸い付いてくる。生暖かくぬるつく肌。痕は確実に残るであろう強いキス。
シーツと腹部に挟まれたまま射精を終えたペニスが、また首をもたげてくる。
抽挿するバクラが、なあ、と低く声をかけてきた。色気のある声に、きゅうっと後孔が締まった。
「どうした…今日のお前…変だぜ…?」

「はっ…?あ、う」

「なんつーか…」

「んンッ…あ…?…あああっ…!!」

突如ぬぽりと抜かれたペニス。しかし戸惑った時間は一瞬で、仰向けにされ両足を高く持ち上げられたマリクの濡れたアナルに、すぐさま、しかしゆっくりと、熱い肉塊を埋め込まれた。
身体中がびくつく。バクラの太く硬く雄々しいペニスの侵入に、全身が歓喜に震える。

「感じ過ぎじゃねえか…?」
「ッそ…そんなことっ…あっ!ああっ…!」
また、緩々と腰を動かしてくるバクラ。
いつもの容赦のない、激しさの中にも甘さがある行為とは違う、ひたすら濃く甘い、そう、まるで、愛し合う恋人同士の特別なセックスのようで。

「なあ…何が原因なんだよマリク…」

「はあっああっんう、あぁっああっ…あーっ…ああー…っ!」

ぬちっぬぢっぬちゃっぬちゃっ
原因はバクラ、貴様だ。お前のせいなんだよ!
そう言ってしまえればいいのだが、マリクにはそれが出来なかった。言えば、バクラの「何が」原因でこうなったのか、細かく聞かれてしまうからだ。だからマリクは、快楽の涙を零しながらふるふると首を振ることしか出来なかった。

「言えって…なあ…?」

「嫌だっいや、だっ…言いたくな、い、んっ、あっ、ああっ…!」

少しだけ速められる腰の動き。内部はバクラのペニスにむっちりと絡みついている。

「…まあいい。何があったかは知らねえが」
「あっ、は、あぁ、う」

上半身が倒れてきて奥深くに熱塊の先端が届く。
ぎゅっと目を閉じていたマリクはそろりと瞼を上げた。至近距離に、バクラの顔があった。
その表情は、感じすぎている自分のことを不審がっている……様子は微塵もない。
快楽に汗を浮かべながらもニヤニヤと、楽しそうな、嬉しそうな表情をしていた。

「今から言うことをしっかり聞いとけよ?」

嫌な予感がして慌てて再び瞳を閉じると、唾液で湿ったバクラの唇が頬に触れた。


お前は

「え、」

一生

「っあ、」

オレ様のモノだ…

「あ、あ、ぁ………ーーーーーーーーーーッ!!!」


頬に唇を触れさせたまま囁かれた言葉に、マリクはがくがくと震えながら絶頂を迎えた。
胎内の一番奥で吐き出された精液は、マリクを満たしていった。



「…最悪だ」
「何がだよ」
翌日。ラブホテルで一泊した二人は帰りの新幹線に乗っていた。
「何がだと!?貴様のせいでボクはっ!あ、あんな…!!」
「あー?オレ様のせいだぁ?オレ様のお陰、の間違いだろ。まさかあんなに乱れるだなんてなあ。最高だったぜ?」
「〜〜〜変態っアホッ!黙れよもう!!!」

あの後、バクラの言葉がスイッチだったかのようにマリクは蕩けてしまい、身体と意識の制御がきかない、危険を孕んだとろとろで甘すぎるセックスに夜更けまで溺れてしまった。恥ずかしい隠語も、何度も発してしまったような気がする。
自分が錠を見ていて、そのせいで感度が高くなっていたなんて知られたくなかったのに。バクラの強すぎる独占欲に身体が悦んでいただなんて、気付かれたくなかったのに。
「つーかよお。見てたなら見てたで言やぁよかったじゃねーか」
オレ達2人の南京錠をよ、とペットボトルのキャップを開けながらバクラが言う。マリクはボトルの中身を呷るバクラを睨みつけたが、何を言っても口達者なこの男に敵わないことはこれまで散々思い知らされているので、はあ、と息を吐くしかなかった。

「…わざわざあんなことを書きに戻るなんてバカげてるよホント。その後書き加えたボクもバカだけど…」
「ぶっ!!ゲホッゲホッ!」
「わ!汚いだろ!」
「……ハァ?!!テメェ、あの後何か書いたのかよ!?」
「見てなかったのか…?」
「見てねえよ!見てねェっつの!!くそっ…オイ!次の駅で降りて戻るぞマリク!」

ぎゅっとキャップを締めたバクラが降りる準備をし始める。
「えっ、戻るってどこに」
「そんなのモニュメントに決まってんだろうが!!」
「ばっ…!戻るわけないだろバカバクラ!!!」













2015.09.06、トンダさんとのバクマリ神戸オフ会より。ありがとうございました!