春の夜




ベンチに凭れたマリクは空を見上げ感嘆の溜息を吐いた。
真っ暗な夜空には瞬く無数の星。
それも十分胸を打つに値するものだったがマリクが心を奪われていたのは別の物だった。

「はー…テレビで見るよりよっぽど綺麗だな」
夜の暗さに浮かび上がる満開の桜。
バクラに外出を誘われたマリクは昼夜の寒暖の差に最初は渋っていたが、連れられてきた公園のライトに照らされた視界を埋め尽くすほどの真っ白な花を目にしたら文句の言葉など出るわけもなかった。
夜桜の美しさにうっとりするマリクに、隣に座るバクラは満足げな笑みを浮かべる。

「来て良かったろ?」
「べっ別に!」

どうして素直になれねーのかねぇコイツは。
照れ隠しに、ぷいと顔を背けるマリクにバクラは苦笑した。





(ねぇねぇところでどうだったの例の公園は!)
(すっごい良かった〜!桜めちゃくちゃ綺麗だったし!)
(で、アッチの方はどうだったのよ?うりゃうりゃ)
(あっえーっと…み、みんな凄かったから…あたし達も…)
(へーじゃあ本当だったんだあの話)




「っくしゅ!」
獏良が遊戯達と雑談していた際に耳にしたクラスの女子生徒達の会話を思い出していたバクラは小さなくしゃみによって現実に引き戻される。
見ればマリクは脚を震わせていた。
「だから言ったろうがもっと着ろって」
「う、うるさいな!うぅ…」
口を尖らせたマリクは二の腕をさすり始めた。
細められた薄紫の瞳と悔しそうな表情はバクラの嗜虐心をぞくぞくと擽ってくる。

「ほら、こっち来い」
そう言いつつも自ら近付き、寒そうにしているマリクを抱き締めるとバッと離れられる。
立ち上がって周囲を確認するマリクにバクラはチッと舌打ちをした。
「お前っここ外だぞ!!」
「なんだよ。テメェが寒そうにしてたからオレ様があっためてやろうとしたんじゃねェか」
「ばっ…!〜〜自販機で温かい飲み物買ってくるっ!!」

慌てて立ち上がり小走りで消えていった恋人にバクラは落胆するしかなかった。







「まったく…」

鈍い音を立てて落ちてきた温かいココアを自販機から取り出す。
寒かったし一瞬だが回された腕が温かかったのは確かだったけど、もっとボクの気持ちも考えてくれ!とマリクは顔をしかめた。
(でも…ボクに桜を見せようと…連れてきてくれたんだよなぁ…)

マリクは財布を仕舞おうとしていた手を止め、投入口に小銭を入れて温かいブラックコーヒーのボタンを押した。
ピッ、ガコン
今度こそ財布を仕舞ったマリクは屈んで二本目の缶を取り出す。
入れられるポケットが無かったのでそれぞれ手で持って、口許に笑みを浮かべて踵を返した。




「壮観だなー…」
舗装された道の両脇に生えている背の高い桜の木はアーチのようだった。
一体この公園には何本生えているのだろうか。マリクは目で確認していくがあまりの数に途中で数えるのを止めた。
下を見ると白い花びらが落ちていて、それもまた綺麗なものだった。

「それにしても大きい公園…ん?」

いつの間にか来た道と違う所を歩いていたようだった。先程は見かけなかった広場に辿り着いたマリク。
ジャングルジム等の遊具に噴水までもがあり、設置されてある全てのベンチはカップルで埋め尽くされていた。
そしてそのカップル達は全員……







「おっせぇな」

腕時計に目をやるバクラは脚を小刻みに揺らしていた。マリクほど薄着ではなかったが春の夜風は肌寒く。
更に先程から聞こえてくる声はバクラを苛立たせるものでしかなかった。

「バクラっ!」

遠くから呼ばれて顔を上げるとマリクがこちら目掛けて走ってきていた。
「何やってたんだお前」
目の前で止まったマリクはぜぇぜぇと肩を上下させている。走ったことによって頬が赤らんでいたが、何故かその表情は困惑していた。
どうした、と聞こうとする前に腹の上で組んでいた手を取られ勢いよく引っ張られる。
「帰るぞ!」
「あ?なんだよいきなり」
「いいからっうわっ!」
ぐいぐいと立ち上がらせようとしてくるマリクの手を引っ張り返してベンチに座らせる。
片腕に抱いていた缶コーヒーを抜き取ったバクラはプルタブを開けて口付けた。

「ありがとなぁオレ様の分も買ってきてくれて」
「あ、う、うん…ってそうじゃなくて!」
「何そんなに焦ってやがんだよ」
「ッッそんなの飲んでる場合じゃないんだって!早く帰ろうバクラっ」
そわそわしているマリクはコーヒーを飲むバクラの袖を掴み引っ張って帰宅を急かしてくる。


「アッああん!」
「!!」

突如聞こえてきた女性の艶めかしい大きな喘ぎ声。全身をびくつかせたマリクがバクラの手を握ってきた。
くつくつと笑いながら、バクラは缶コーヒーを再度煽る。

「どうしたよマリク」
「お前っ今の聞こえただろ!うっ…!?あ、あそこ見てみろ…!」
顔を俯かせたマリクが指差す方向にあったのは三人は掛けられそうなベンチ。
そこには一組のカップルが座っていた。
男が跨らせた女の乳房を後ろから揉み、女が開脚した中心部で下着をずらして男の肉棒を咥えて。

「いいぞっもっと腰振れっ」
「ああっスゴい!気持ちいいのッ!!あはああああっ!」
場所を気にする素振りなど全く見せずに声を上げてセックスに浸る男女。
「…ヤってんなぁ」
「何落ち着いてるんだ!」
「あはっ!あんっあんっあぁああああーっ!」
「ひぃっ!?」

今度は後ろの茂みの奥から別の声が。
驚いて振り向くマリクと同じようにバクラも顔を後ろにやると、女を木にしがみつかせて立ちバックで事に及んでいるカップルがいた。
「んあっんあっだめぇえ太すぎるーっ!もっとぉもっとお!はうううぅう!!」
「このッヤリマンが!中に出してやるッ!」
ベンチのカップルよりかなり近くにいた為、声だけでなく出し入れの生々しい音まで聞こえてくる。
前に向き直ったマリクはバクラの手を更に強く握ってきた。
「さっき別の所でもこんな感じだったんだよ…滑り台でしてた奴とか…」
「へえ」
「へえ、じゃない!この公園どう考えたっておかしいだろ!!早く家に帰るぞ!!」

動揺するマリクは今にも泣きだしそうな表情をしていた。
毎日のように身体を重ねていても下ネタを含んだテレビ番組や雑誌をあからさまに避けるマリク。
AVなんてもってのほかで、一緒に見ようとバクラがレンタルしてきたことがあったがパッケージを見せた瞬間脱兎の如く逃げ出され、それでも無理矢理見せようと捕まえたら闇マリクの人格を出すほど。
どれだけバクラが手をかけ突き入れ擦り込み舐め回し肉体を泥沼の底まで淫らに溶け堕としてやっても、心は”うぶい”ままだった。
そんなマリクが、バクラを堪らない気持ちにさせる。


飲み干した缶を地面に置き潤んだ目を見てそっと顎に指を添えると固まってしまったマリクにバクラはクッと笑った。
「帰るだと?馬鹿言うな」
「んっ」
顔をずらしてバクラはやわらかい唇に口付けた。
ぎゅうと握ってきていた手の力が緩んだので、互いの指が交差する形にして今度はバクラが強く握りもう一方の手でマリクを思いきり抱き締める。
そのまま食もうとすると胸を掌で押されて口が離れてしまった。
「ば、かお前っ」
「煩ェよ」
「あっんうう」
マリクの言葉を無視して再び強引にキスをする。
唇が合わさればマリクの口が反射的に小さく開いてしまうことは分かりきっていたので、バクラはいつものように舌を侵入させた。
怯え潜んでいたマリクの舌をつつく。
「あふ、ふはぁっば、あっやらっぁ」
「ん…ハァ…」
れろ、と舌先を舐めればマリクの舌は従順になり、バクラのものにおずおず絡んできた。
胸を押していた手はいつの間にか服を弱々しく握ってきていて、バクラの目が細まる。
「んんっやっ背中っ冷たぁっ…!や、ひゃあっ」
マリクの腰に回していた手を服の下から潜り込ませて素肌を撫で上げて感触を楽しむと、引き締まった身体がビクンッと震え上がる。
撫でる手を止めないままちゅっちゅっと頬にキスすればマリクはくったり寄り掛かってきた。
バクラから絶えず送られてくる微弱な甘い快感に、その宝石のような目はとろけ始めていた。
「マリク…」
「ふあ、あバクラぁ…」
「あっんあああっあっあ〜!いいっイイ〜〜っ!」
「きゃあーッ!!イクッイくっいくぅーっ!!」


「はっ!??」
熱の灯った瞳を見つめ合い互いに唇を近付け触れ合うまであと数センチ、というところでまた聞こえてきた淫声。
女のその声を聞いた瞬間、明らかにマリクの目の色が変わった。
「あ……っ!ばっ〜〜馬鹿バカばか馬鹿バクラッ!なんでこんな所でこんなっ」
「おいマリク…折角盛り上がってたってのに」
「こんな場所で盛り上がらなくたっていいだろ!なんだよ!他人の行為見て盛ったのか!?変態!やっ離せっ」
性交に溺れた女性の声に、浮いていた思考を引き戻され今自分達のいる場所を思い出したマリクは繋がっていた手を振り解こうとしてきた。
「変態ね。そりゃドーモ」
「おいっん!んんむっ」
身を捩るマリクをさっきよりも力強く容赦なく抱き締めて舌を捩じ込んだ。
背中に這わせていた手を服の中で移動させて腹を辿って平らな胸の中心にある乳首を摘めば強張っていた身体は途端に力が抜けていく。
そのまま何度もくに、くに、と刺激すると鼻にかかった声が漏れ始める。
「ぷはぁっバクラっやだぁっやめっっ外で、なんてっ人ッいる、し家帰ってからぁ…!あぅ」
「今のお前やだやだ言う奴の顔じゃねェぜ?早くハメられたくて仕方無ェってすっげぇエロ顔してやがる…」
「ふああぁああ…〜〜〜ぁむッ!」
耳介に息を吹き込むと腕の中の褐色の身体がぶるぶるぶるぅっと震え上がった。
乳首を弄りながら、だらしなく開いた口から出ていたマリクの舌を絡めとる。攻めるバクラの顔も興奮の色に染まっていた。

「んちゅっやっぁうっ」
「んく、は……勃ってんぜ?お前もだが、オレ様も…なァ?」
「お前ッ!なに出してっ」
乳首から手を離したバクラは片手で自分のジーンズのボタンを外しジッパーを下ろして性器を取り出した。
血が集まり、膨張した硬いペニス。
まさか外で堂々と性器を出してくるとは想像もしていなかったマリクは慌てふためきだす。
「何考えてるんだお前っ早くしまえ!誰かに見られるっ」
「あー?ならテメェが隠してくれよ、オレ様のチンポ」
「ちょっんぶ!!んぐぅ」
「っ…ちゃあんと根元まで上手いこと頼むぜ?」
握っていた手を解いたバクラはマリクの頭を掴んで押さえつけ直立した自分のペニスを咥えさせ亀頭で喉奥をズンッと突く。
咽頭の柔らかさと口内の温かさにバクラの腰が跳ねた。
衝撃と動揺に固まっている様子のマリクだったが、放っておいてもすぐに耐えられなくなって舌を絡め吸い付いてくるだろ。
そんな確信があったバクラは頭に乗せた手に力を込めることはせず、チノパンの上からアナルの辺りを指でくるくる撫でて、つうっと指を滑らせ硬く膨らんだ股間部分を指の腹でノックする。
「んふっ…んぐ…!」
案の定反り立った肉塊に舌を這わせてきたマリク。目を固く閉じ必死に顔を上下させしゃぶる。
じゅぼっぐぷぷ、ぬちゅぐちゅうっぐぽっぐぽっぐぽっ
色素の薄い乾いた髪を撫でるバクラの息は上がっていた。
「イイぜぇマリク…はあ」
「んんっば、バクラぁっ」
太く長いソレを唾液まみれにしてちゅぽんと口から出し、手で幹を擦ってくるマリクは口を半開きにしてバクラを見上げてきた。
切なげなその眼差し。バクラは荒く息を吐いて舌なめずりをした。
「ホントエロ顔、だなァ?お前の姉サマとハゲにも見せてやりてぇよ、イシュタール家末裔のマリクちゃんはこんなにもエロエロなんです〜ってな」
「何言って…あっや!やだッ!」
マリクの身体をベンチに寝かせて性急にチノパンとボクサーパンツをずり下ろす。飛び出てきたマリクのペニスも硬くなって先端を濡らしていた。
長い脚を折り曲げさせてバクラは窄まったアナルを舐める。
「バクラっ!やめ、やめろ!!っぁあ…くぅっふあ、くぅ」

ぴちゃっぴちゃっぴちゃっぴちゃっズズッ!にゅぐ…
「やっ??!舌っヒッ…入れるなぁ…!やだあっもっあんんッふ、うぅ〜〜〜っあっあ〜〜〜!」
秘部に尖った舌を突っ込まれ、家でされる時でも恥ずかしいのに屋外ともなればマリクの脳内のフィラメントは焼き切れる寸前だった。
目を閉じるだけでは足りず両腕で顔を隠すマリク。
歯を食いしばってもバクラの生温かい舌で腸壁をほじくられれば我慢できずに喘ぎ、足の先が何度も跳ねていた。
「んぐ、はァ…スッゲ…ギュウギュウ締まってるぜケツん中」
奥の奥まで突っ込んでいた舌を抜いたバクラは唾液で濡れたアナルに指を差し込んで笑う。
「ばかッあ〜っ!ハァッハァッあ、ん、う」
「お前顔隠してんなよ。ほら」
「あッ…!」
甘い声を吐き出す顔が見たくて覆う腕を引き剥がすと溶けた美顔には汗が浮かんでいて、いつもベッドで見る、バクラを望む顔になっていた。
予想はしていたが外で見ることなんて滅多にない自分を求めるその表情は、バクラの獣に火をつけるには十分だった。

「クソッもう我慢出来ねェッ」
「嘘っあ、あぁああああ……っ!!」
「きっちィ…はぁったまんね」
顔を隠さないようにマリクの手首を掴んで、いきり勃ったペニスで腸内をズンッと一気に貫いた。
熱すぎる肉壁はいつもよりキツく締め付けてきてバクラは眉を寄せて腰を動かす。
ずぐっ…ずにゅっ…
暴れ狂うバクラの熱の塊は、外で行うセックスに恥じらい胎内でぎゅうぎゅうと絡みついてくる恋人をもっと犯させろと咆哮を上げてくる。
しかしマリクを寝かせて交わるにはベンチの上という場所はあまりにも狭すぎて、緩い動きで身体を揺する。
「あっあっあっんっうっうぁっくぅッ…ばかぁっ…こんな所でするなんてっぬ、抜けってば…!」
「やだね…っ」
「うわっん!!」
繋がったままマリクを抱き上げて対面座位の姿勢になった。
「あ、あ、奥までっ入って…〜〜んんうっ!ぁあっあ〜っあ〜〜…っ!」
結合が解けないように柳腰を押さえつけ腰をグラインドさせるとバクラの首に抱き着いたマリクが身悶え悩ましい声を上げる。
バクラも快感に口を閉じておくことが出来ず小さく喘ぎながらマリクの胎内を夢中で貪った。
「ひ、いっばくらぁっバクラぁ…うっうぅ〜〜〜!見られちゃ、う!恥ずかしい……!!」
「はぁっあ、セックスしてて他人のコト気にする暇なんざねェよ…オレだってテメェの、ことだけで精一杯だってのに、つっ…お前はオレとヤってる間っそんな余裕があるって、のか?」
「あはァああちが、そういうことじゃっあンん!!!んんんーーっ!!」

ぬぢっぬぢっぶぽっぶちゅ、ぬっぬっぬごッ!ぶぶっずぼっ!

「そんなにこすったら!あ、う、もっ無理っいぃ…!」
「マリクっ…マリクッ…!」
「アぅうううッあああっあはぅっイ、いくっい、いふぅうっぁ〜〜〜〜……ッ!!」


ビゥウッびゅるるるる!ドクッドクン……トプットププッ…

恥ずかしいシチュエーションの中で細やかに腸内を擦り続けられる快感に背を丸めて達したマリクは、バクラの首に顔を押し付けて放たれた大量の精液に身震いした。



「ふうっう、うぅ〜〜…!中に出すなんて…〜!」
「ハァッ……あー…気持ちよかったぜマリクぅ…」
「うううっアホっ!あっ腰を揺するんじゃないっ!早く抜け!あっあんん〜〜…ッッ!!!」
赤く染まった耳の中をぬめった舌でちゅるちゅる舐めるとマリクは腰を揺らめかせて背を反らせた。

「もう一回いいだろ、な…?」
「お前ッそんな風に囁けばボクがうんって言うと思っ、あ、あはッ…」
「いいじゃねェか、テメェのドロドロに濡れたケツん中が堪んねえんだよ。まだ犯し足りねェ…」

耳を舐めながら、剥き出しになったマリクの形の良い尻を撫で回してクッと笑う。
嫌がっても、いつも最後はバクラの言うままに身体を開いて快楽を貪るマリク。
目尻に溜まった涙を舐め取って、バクラは挿れたままのペニスで突き上げようとした。


「ばくっ、も、ばかぁ……っひ?…ックション!!クシュッ!!くしゅんっ!」
「い゛!?ちょっ待てっ痛ぇ!クシャミでケツ締めんな!」
「無茶言う、な、ひゃ…は、はっ…ハあックショーーンっっ!!!」





桜の咲き乱れたあやしい夜の公園からの帰宅後、風邪をひいてしまった般若の顔をしたマリクから『一週間セックス禁止令』を出されてしまったバクラ。
しかしマリクの醸し出す無意識のエロさにムラっときてつい手を出してしまいプラス一週間追加されたのは後日談。