ダブルチョコレート



「まだ食うか?」
「あ、あ、うん…食べる…食べたいバクラ………」
 指の爪と肉の間までちゅぷちゅぷと丹念に舐めてくるマリクに、足を組んでバクラは笑う。
マリクは今、先日購入したばかりのソファの上で、身体中の力を抜いてバクラに身を寄せていた。床には着込んでいたマリクの服が乱雑に散らばっている。
「あま……」


 夕食の後に手渡された掌サイズの一箱目のチョコを食べた時は何の変化も無かったのだが、同じサイズの二箱目のチョコをバクラの手から直接食べさせられると、マリクは酔ってしまったかのようにソファに倒れ込んでしまったのだ。
 酒を入れたのか、とクラクラする頭でバクラを睨み上げると、無言でもう一粒口の中に押し込まれた。
 甘くて、ほんの少し苦いチョコが口の中で溶けると、それこそ何も考えられなくなってしまった。隣に座ったバクラの肩に頭を預け、カカオの香りの漂う息を吐いた。
「おら、口開けな」
「はァ…あむ」
「安心しろ。アルコールは入っちゃいねェからよ」
 熱に浮かされあついあついと言いながら、マリクはチノパンと下着を脱ぎ捨てる。
 緩く勃起したペニスに手をかけて扱きつつ、バクラが持っているチョコの箱に手を伸ばした。長い腕はすぐに箱を捉えたが、バクラは手を払いのけてマリクの届かない位置まで箱を遠ざけた。
 こんな時でも意地の悪いバクラに、自慰で完全に天を向いたペニスの根元を指でつくった輪で締め付けながら眉を寄せた。
「なん、で…」
「テメェに渡したら一気に食っちまうだろーが」
「違う、ボクはっ、ンンッ!」
「あ?」
 滑らかな白い手にカリ首をくにくにと揉まれて、マリクは快感に喘ぎ言葉を途切れさせる。
「あ、く、…はぁっ…ボクもっお前に食べさせてやりたい、からっ…う、あっ!!」
ぴゅッぴゅうッ
 尿道に爪を立てられ前後にぷちゅぷちゅと擦られてしまい、思わず戒めていた指の力が抜けて溜まっていた精液をびゅるびゅると吐精させてしまった。全てバクラの服に飛び散った、ホワイトチョコのように白い精液。吐精の余韻を味わっていると、顎を掴まれて強引に唇を合わせられた。
 顔の角度を変えてちゅむちゅむと濡れた音を立てられる。次第にマリクの方が我慢できなくなってきてしまい、唾液にまみれた舌でバクラの唇を舐め上げた。
 バクラは箱の中から一粒取り出した後、まだ中身が残っている箱を床に落とした。そして摘んだチョコをもう一度マリクの口の中に押し込んだあとで、自らの口を開いた。
 マリクもその意味が分からないほど子供ではなかった。口内で少しばかりチョコを溶かし、目の前の薄い唇に飛びついた。
ぢゅ、にちゅ、ぴちゃ…
 バクラの舌に触れたマリクの長い舌の肉は、喜んでその身を絡みつかせる。
 いつもより格段に甘い、大人のキス。

 バクラが用意したチョコレートはどちらも購入した物だったが、二箱目の方は中身を取り出して、バクラが手作りした物を入れていた。そのチョコの中には、強力な催淫薬を混入させていたのだ。
 マリクが自ら服を脱ぎ、バクラが横にいるにも関わらずオナニーを始めだしたのがよく効いている証拠だった。
 そんなことなど全く知らないマリクはキスに夢中になっている。啄んで、吸い付いて、絡ませて、一度バクラの顔を確認するようにゆっくり離れて、また堪らなくなって啄んで…と、感じ入った声を洩らしながら何度も同じことを繰り返す。
 これ以上潜り込めないところまで舌を伸ばしていると、身体を押されソファに押し倒された。身長のわりに体重の軽いマリクはその時しっかりとバクラに抱き付いた。
 いい加減舌が痺れてきそうだったバクラは一旦マリクの顔を引き剥がす。不服の声を上げられたが、バクラは構わず汗に濡れたマリクの首に吸い付いた。
「はァあああ……ッばくらっ、痕っ残る、あッ………!!」
「ハ…残るんじゃねえ…残してんだよッ…」
 ぢゅっぢゅっ。音を立てて吸い上げると、褐色の肌に鈍く咲く赤い華。
 鼻を押し付けて細胞の一つ一つまで行き渡るように深く吸い込むと、マリクからは甘さと苦さの入り混じったカカオの香りと、雄の興奮しきったニオイがした。どこか乳くさいニオイもしたが、これは流石に気のせいだな、と嗅ぎながらバクラは思った。
 あ、あ、ア、と引きつった甲高い声を上げて身悶えるマリク。
 全身性感帯ともいえる今のマリクの肢体は、『バクラに触られている』というだけでマグマが押し寄せてくるような酷い快感に襲われていた。
 体温の上がったバクラの手で脇腹を撫でられるだけで、どうにかなってしまいそうだった。

 獏良(バクラ)と一つ屋根の下で生活を共にするようになってから、自分では気付いていなかったがマリクには大きな変化があった。
 王に憎しみを抱きリシドと地下を出た直後から、幼い頃から憧れていた外の世界を冷めた目で見つめながら闇の組織・グールズの総帥の座にいたマリク。バトル・シティでの運命の闘いで王に敗北したが、それと同時に宿命に縛られていたマリクの心は解放され、その後日本で生活していく中でゆっくりとほぐれてゆき、ようやくマリクは自然体でいられる場所を見つけることができた。
 よく笑い、感情のままよく怒るようになったマリクはふと考える。
 位置づけをするなら、獏良は、自分ともう一人の自分を子供扱いするがよく世話を焼いてくれて、いつどんなときでも優しく包み込んでくれる、まるで母親のような存在。
 もう一人の自分は、王と遊戯の『相棒』という関係とはまた違って『兄弟』というのがしっくりくる。手間がかかるが可愛い弟だ。
 しかしバクラだけは、自分にとってどんな存在なのかが分からなかった。
 強姦される形で相手を知って、それから何度も好きだ愛してると言われ抱かれてきた。心の底から号泣しながら犯されたのは最初の一度きりで、あとは大体激しくも甘いセックスだった気がする。
 バクラは恋人だと言い切ってくるが、それがマリクにはよく分からなかった。
 確かに姉やリシド、獏良に抱く感情やもう一人の自分を大事に思うのとも違ったが、これがいったいどんな気持ちなのか。…それとも、自分は分からないふりをしているだけなのか。
 ただ、あの手で抱き締められるのは他の何よりも心地良いと、それだけは自覚していた。

「バクラ…手…」
「あー…?」
 首を吸いながら腹を撫でてきていたバクラの手を取り、緩慢な動きで顔に持ってこさせ頬を包ませる。
 あったかいな。
 うっとりした表情で無意識にマリクはそう呟いた。
 そんなマリクに、今度はバクラが堪らない気持ちになってしまう。

 三千年前、エジプトにいた頃は好きなように女を抱いていた。言い寄って来る者もいたが、大抵はバクラが適当に町の女を攫っていき、好きなように抱いて、その場に捨ててきた。
 それが自由の象徴、盗賊の王の特権だ、と星の数ほどの女のその後など気にしたことも無かった。愛に関心を抱くことは、復讐することだけを心に抱きながら生きてきた盗賊バクラには必要が無く、愚かとすら思っていた。
 だが三千年後の現在はどうだ。男の裸体を目の前にして、興奮して、ペニスを張り詰めさせて、なのにまだ我慢している。正直なところ血の集まったペニスがジーパンで圧迫されてキツいことこの上なかったが、それでも、目の前の恋しく想う相手をもっと喜ばせてやりたいと思い、ジッパーを下げないでいる。勃てば慣らしてもいない相手に無理矢理挿入していた昔のバクラからは微塵も想像することができなかった未来だ。
 愛しくて愛しくて、仕方が無い。十六歳という、三千歳以上も年の離れた相手に胸を焦がされることがたまに癪に障ることもあったが、そんなことすら馬鹿らしく思えるほど、バクラはマリクのことが好きだった。
 ふくよかな胸があるわけでもないし、柔らかい身体というわけでもない。女の肉とはやはり違いがあるものの、バクラは今まで交わったどの身体よりも、男であるマリクが自分を補完する全てだと思った。
 こんなにも満たされる気持ちは、初めてだった。まるで幾万、いや、幾億のバラバラのパズルのピースの二つが合わさったような、という表現が一番しっくりとくる。
 マリクとの何度目かのセックスでその気持ちに気付いたバクラは、褐色の痩躯を突き上げている最中、感激に思わず涙を零しそうになった。

「マリク…」
「あ、ア、うん…は…」
 首に密着させていた唇を、肌にふんわりと触れさせたままバクラはゆっくりと移動させていく。輪郭を辿って、頬、目尻、瞼、眉間。細かく身体を震わせるマリクの五指に自分の指を絡ませ、鼻の先端、唇に数度のバードキス。顎、喉仏に触れて胸元へと到達する。
 そこには赤く色付いた乳首が二つ勃ち上がっており、体温と室内の温度の差から乳輪はぷつぷつと粟立っていた。
 自由な右手の親指でマリクのぷっくりした乳首を押し潰すと、マリクから「ンん」と甘い声が出た。
「勃ってるぜマリク。ビンビンじゃねえかよ」
「んぁあ、ふッ…あぅぅ、ひッ、ん」
「舐めるぜ…?」
「ッ!ばっ、聞くなよそんなことっ、あっ、ぁああっ……!」
 力の無い拳で頭を叩いてきたマリクにバクラは口を歪めて笑い、ちゅむ、と乳頭を口に含んだ。甘えるようにちゅうちゅう吸い先端を転がすと、マリクは頭を左右に振って絡ませた指に力を込めてきた。
 快感に腰が浮き、マリクは汗ばんだ掌で顔を覆ってしまいたくなったが、一歩先にバクラに手を掴まれ胸に持っていかされる。一瞬戸惑ったがここでやらない方がなんとなく恥ずかしい気がして、厭らしく膨れ上がった乳首を爪で引っ掻いた。
「んっ!!や、ひいッバクラぁ…ちくびっ乳首、すご、あ、やぁアッ」
「ヒャハ…テメェ自分で触った時の方がイイ声出てんじゃねえの?この淫乱がよぉ」
「違うっ…慣れてな、い、だけだもん…っ!」
「そうかァ?あーヤベ、吸いてェ…」
「んあっ!やだっや、あっあぁん!!」
 淫靡に光る赤い乳首を見ていると、また吸い付きたくなってしまう。搾乳するように強く揉みしだいてから、再び口に含み入れる。

ちゅう…ぢゅぐぅううッ
ぢゅぱっチュッチュウチュウ
ぴちゅ、ヂュルルルルゥッ!
「はあ、あ、ァん…」
 マリクはその美貌を悩ましげに歪ませて、ぴくんぴくんとペニスを勃起させる。
(バクラ…そんなにボクの乳首、好きなのかなあ…)
 覆い被さられて、他の愛撫は施さずただひたすら乳首を吸い上げてくるバクラを見ていると、腹が甘い疼きを訴えだしてきた。母性本能を刺激されている気がして、(もしかしたらいつか本当に乳が出ちゃうかもな…)そんなことがぼやける頭の中をよぎった。
 無意識に腰が揺れて浮いてしまうと、剥き出しのマリクのペニスはバクラの程良くついた腹筋に服越しに潰され、いつの間にか顔を上げていたバクラがそんなマリクを見て笑った。
「おいおいマリク…またチンポ勃ってんじゃねえかよ…ハ、ァ」
 身体をずらすとソファが深く沈む。硬いジーンズ生地の下で反り返っているペニスをマリクの裏筋に押し付け、肩の横に腕をついて身体を重ね合わせる。バクラはおもむろに腰を上下左右に揺らした。
「ン、んんっ!あ…バクラ…?!」
 バクラに上から体重をかけられ、反り勃ったペニスが強い刺激によって再び汁を零し始めた。嬌声を上げながら下方を見ると、二人の身体が重なり合っているせいで陰ができてよく見えなかったが、硬く熱く隆々としたバクラのペニスを感じ取ることは容易だった。
 ぐいぐい股間を押し付けてくるバクラの額に浮かび上がっている汗。うっすら赤らんだ頬を、白い肌に浮かぶ珠のような汗を見ていると、マリクは既に昂ぶっている心を余計熱く擽られた。
「気持ち、いかァ?」
「はァッ、あ、んっんっ…!く、うあっあッ」
「なんとか言えっ、て、マリク…はあ」
 汗を滲ませたマリクのこめかみに唇をつけ、止まらない腰をそのままに何度もキスを落とす。
「ち、いッ、気持ちっあっイィッ…!んぅうっ」
 軋むソファの音と重なるように声が洩れ、開けっ放しでカラカラに渇いた喉を潤すため「キスしたい」とバクラに頼むと、絡ませていた手を離され両頬を包まれた。
「駄目、だ」
「ッ、な、ア、なん…で…?!」
 てっきりいつものように、口腔を溶かす勢いでキスしてくれると思っていたのに…。
 微量の媚薬は催淫効果でマリクをとろとろに溶かすだけでなく、どうやら感情までも昂ぶらせてしまったらしい。鼻の奥が痛んだかと思うと、生暖かい液体が頬に一筋の道をつくった。
「…、ぅくっ…!ひッ、く…!!」
「泣くな、違ェよ。まずテメェがオレ様の服を脱がせてからだ。そしたらキスでもフェラでも、なんでもしてやるからよ」
 そう言ったバクラは起き上がり、肩を震わせている恋人を起こした。顔を覆う手を剥がし自分のTシャツの裾を握らせると、マリクの表情はパァッと明るくなる。その様を嘲るように笑ってもマリクは気にすることなくバクラの服を持ち上げて脱がしていく。

 ぱさ……
 脱がし終えた服を床に投げ捨て、露わになったバクラの上半身に赤面し、マリクは釘付けになる。これからこの体に抱かれるということが改めて確認できてしまい、身体の芯から熱くなるのが止められなかった。
 ぼうっとしているといきなりペニスを握り込まれ、バクラの整った顔が近付いてきてキスをされた。
「んっ、ふッ…ん、…んむ………」
「…ン……」
くちゅッぷちゅっ
ぷちゃぷちゃ、ぐちゃ
 白い手に緩やかにペニスを扱かれながらのキス。カウパーをローション代わりにされてスムーズに行われ、マリクは鼻にかかった甘い声を洩らす他なかった。
 日が沈みかけた独特の雰囲気も自分達を燃え上がらせる薬のようで。長く美しい睫に快楽の涙をつけぺちゃぺちゃと舌を絡め合わせ、バクラの股間の膨らみに手をかけ、揉み、手探りでジッパーを下ろした。
「ぅ……あ、バク、ラッ」
「…ん、どうした…?」
「なッ、…ぁ、舐めたいん、だ…」
「…ククッ、一体何をだァ?」
 唾液まみれの口元にちゅッちゅッちゅ、とキスをしてきながらバクラは言うが、トランクスの布の合わせ目に指を潜り込ませようとするマリクが何をしたいかなど、明らかなことだった。
「う、あ、バクラ…意地悪っするなッ…!!」
「ん?そうかァ?可愛いオクチで厭らしく素直に言やいい話じゃねぇか…おら」
「いッ!」
 陰嚢をぐにゅりと揉みしだかれマリクは目を見開いた。しかし自らの口から淫語を発するのには抵抗があるのだろう。バクラが揉む手に少し力を加えても言葉を出そうとせず、ソファに爪を立てて喘ぎ続けるばかり。
 薬が足りなかったか…?
 仕方ねェ、もう一粒食わせるか。とマリクを嬲る手を止め、床に放置していたチョコを取りに立ち上がろうとすると、涙を零しながら止められた。
「やめっ、行くな、ア、言うからっ、ぁ、ちゃんと言う…から…!!」
 興味が削がれこの行為をやめられるとでも思ったのだろうか。腰に腕を回してきて眉を下げて見上げてくるマリクの頭をぐしゃりと撫でてやると、ようやく唇をゆっくりと動かした。
「バクラの……ち、チンポ、フェラチオしたいっ…」
「……クク、いいぜェ。ほらよ、ご褒美だ」
 目を細めて笑ったバクラはソファに座り直した。トランクスごとジーンズを下ろそうとしたのだが、「下着は脱がないでくれ」と甘ったるい声でマリクに言われたため、ジーンズだけ脱ぎ捨てた。

 向かい合ってソファに座り、バクラは片足を床に放り投げている。全裸で腰をひくつかせていたマリクは、待っていたと言わんばかりに勢いよくバクラの股間に顔を埋めた。
(はあァ………すごい…)
 トランクス越しに興奮し勃ち上がったバクラのペニスのニオイを深く吸い込み、マリクはさながら射精後のようなえも言われぬ恍惚感に襲われていた。細胞の一つ一つにまで浸透していくようで。くらくらする頭で、更に嗅ぎ続ける。その間バクラは何も口に出さず、柔らかい象牙色の髪を撫でてマリクのしたいようにさせていた。
 一通りニオイを堪能した頃には、ソファの表面はマリクから零れた我慢汁でずるずるに濡れていた。
「…ふぁ、あ…」
 ゴム部分に指をかけてそっとずらすと、カウパーをぷつぷつと溢れさせた張った亀頭が眼前に現れて、マリクは堪らず唾を嚥下した。
 赤く膨れ上がり快感の証を零す先端を見ていると、また一段と疼きだしてくる下腹部。もう我慢なんて、できない、と亀頭を口に含んでちゅうちゅう吸い上げた。
「ック、は」
 口の中に入れたまま舌で窪みをちろちろと舐めるとバクラは低く喘ぎ、象牙色の髪を撫ででいた手を止めた。
 本当はペニス全体を、先端から根元まで刺激が欲しいのだということはマリクも同じ男なので分かっていたが、あえてそれはしなかった。トランクスから取り出した先端部分のみを執拗に舐め、指でくにくにと揉んで時折爪を立ててみるが、中に収まったままの竿には触れないようにする。
 はじめのうちは、大人しくしておいてやろう、と思っていたバクラだったが、次第にそれがわざとやられているのだと気付き、手を伸ばしてマリクの胸の上の勃起した乳首を摘まみ上げた。
「テメェよぉマリク…そんなにオレ様に手酷く犯されてぇのか?」
「ひあッ…!バク、らっ」
 ぷくりと尖った乳首を痛みを感じるほどに引き伸ばされ、マリクの尻は無意識に高く持ち上がった。
 官能的な喘ぎ声を途切れ途切れに洩らしていると、バクラは手を移動させ、今度は褐色の尻肉を手加減無しに揉みしだいてマリクを更に喘がせてきた。
 だがマリクは心の奥底で、こうなることを渇望していた。
口端から涎を垂らしながら、(バクラがサディストだから仕方なくボクは…)と自分を納得させているのだが、それは違っていた。
 元々マゾヒズムの気があるのだ。マリクには。
 そんなマリクの本性を知っているため、バクラも別段怒っているというわけではない。その証拠に表情はいつもの、マリクの言う『嫌みったらしい顔』をしていた。
 マリクの顔をソファに押さえつけ、カウパーとマリクの口から零れ落ちた唾液で染みのできたトランクスを脱ぎ捨て、再度ソファに座りペニスをマリクの喉奥まで押し込んだ。
「ぐむッ、ん、んふッんっんっんんっ!!」
「あー……これよ、これ…」
 激しく腰を前後に動かされながら、マリクは手を後ろに回し自分でアナルを解していた。
 ほぼ毎日と言っていいほど太い肉塊で拡張されている所為か、はたまた媚薬の効果が及ぼしているものなのか。爪を切り揃えた指をあまりにも簡単に呑み込んでしまったことに、ボクはなんていやらしい身体になってしまったんだ…、とマリクは赤面した。  しかも腸壁はぐねぐねとうねり、指を生暖かく包み込み程良いキツさで締めてくるのだ。
 バクラによく、からかうように、テメェの身体は名器だ、と腰を強く打ち付けられながら言われていたのを思い出し、喜ぶのは間違っていると思いたいのにマリクの身体は自らの淫らさに乳白色混じりの体液を零し始めた。

 喉奥を突かれ続けて流石に顎も痺れ始めたので呻き声を洩らすと、硬く反り返ったペニスを口腔内からゆっくりと引き抜かれて頬にべちゃりと押し当てられる。マリクは、うっとりとアメジスト色の瞳を閉じた。
 唾液とカウパーで全体が濡れているバクラのペニスは驚くほど熱く、神経を麻痺させるようなニオイを宿していて、まるで未知の生物のようだ、と感じ入りながら思う。
「なァ、マリク」
「ん、ん…」
 白磁器を思わせる手がグロテスクなペニスの竿部分を持ち、亀頭をマリクの薄い唇の上で滑らせバクラは荒れ狂う興奮を押さえ込んでゆったりと笑う。
 だがしかし、上気した肌は隠しようもなく。
「チンポ、早くテメェん中に入りてえってよ」
「ボク、の、なか」
「そうだ。テメェの熱く滴ったエロい身体ン中だ。指なんかじゃ足りねぇんだろ?」
 ヌポ…と卑猥な音を立てて指を引き抜き、開いた口から涎を垂らしながら頷くマリクにバクラのペニスは反応し、これ以上ない程に勃起する。
「ッ…オイ、自分で入れてみろよ」
「それ、って……」
「あぁそうだ。オレ様のモンに跨がって腰落としてテメェで動くんだ。これ、欲しいんじゃねェのか?あ…?」
 騎乗位、だなんて。マリクは思わず俯いてしまう。ここまで力を抜かせておきながら自分で動いてみろ、などと酷なことを言うのか。
 アナルは早く肉棒を喰わせろとひくついているがどうにも動けず戸惑っていると、耳朶をねぶられ外耳道に舌をねじ込まれる。
「いっ!!あ、ァア…はあッ…!」
「たまにはイイじゃねェかよぉ…ぁー、クソっ」
「え、わッバクら?!…くぁッ…あ…あっ…!!」
 不意に身体を持ち上げられた次の瞬間アナルに入り込んできた鈴口に、マリクは全身を細かく震わせた。
 バクラは片手で柳腰を支えてもう一方の手で勃起した肉茎を持ち、くちゅくちゅと水音を立ててマリクの秘穴に擦り付け、時折押し込んでくる。もどかしさに、マリクは切ない吐息をついた。
「ふぅッ、う、はあッバカばくらっ、焦らすなっ…アッ」
「ク…ヒャハ…テメェからチンポ咥え込むま、でっ、ずっとこうしといてやるぜェ」
「ッ、ば、くらぁ」
 馬鹿野郎、変態、鬼畜、サディスト、と脳内で毒づくものの、マリクの身体は限界で。
 怒張したバクラのペニスを、バクラの手の反対側からそっと掴み、一つ深呼吸する。吸い込んだ空気さえ先刻食べさせられたチョコのように甘ったるい気がしたが、もう何も考えることは出来なかった。
身体中の力を抜いて腰をそろりと下ろし、にゅぶ、とペニスを呑み込んだ。
「か、は…!バ…あッ、あ、う…―ッ」
「まだ全部入ってねェだろっ…おら、もっとケツんナカっ弛めろ、よ」
「ふ、あ……仕方、ないだろッ…バクら、の、太くてっ脈、すご…ドクドクしてッて、ァ、………」
「っ!?クソ、ガキがッ…!」
「ひッ?!い、いあァ、ァアアア…!!!」
 ぬぶ、ぐぶぐぶグブッ、ぐちゅんっ!
 腰を鷲掴みにされ突き上げられたペニスに、身震いしながら甲高い声を上げたマリク。
 ボクがやった時は全く入らなかったのに…と不思議に思うほど、後孔は難なく肉棒を受け入れた。灼熱の肉に、腸内は悦びを露わにしてぴったり包み込み、離すまいとする。
 生暖かく濡れるナカは何とも言えない快感をペニスに与えてきて、バクラは背筋を震わせてクンッとひと突き、マリクの腸壁を擦り上げた。
「い、ひ、アァッバクラッ!うあ、あ…はァ」
「…ハ…乳首までビンビンだぜ…マリク、っは、あ、吸っててやるからッ腰、動かしなぁ…」
「ち、くびっ、うん…はア…!!んっあ…あっあっあァ、あっバクッはあっあっくっんっんンっん!」
 ずぶっ、にちっにぶッにゅぶッにゅぐっ…にゅぐっにゅぐうぅッ
 滑らかな褐色の裸体を引き寄せて勃起した乳首をわざと音を立てて吸い上げると、さっきまで渋っていたのが嘘のように腰を上下に動かし始めた。
 結合部から聞こえてくる控えめに粘着音は耳を犯し、行為を助長させた。

「ハァ、く…マリク…っ」
「ばっばくっあッあ、ふッ…イ、ィ…ッ奥っあ、…はッバクラっ乳首……おいしい…か…?」
「ン、ん…はあ、吸いごたえがあって美味いぜぇ…。いつも言ってんじゃねぇか、テメェの身体はどこもかしこも美味ェから好きだってよぉ」
「……あ…、ん…バクラぁ…」
「どうした…疲れたか?」
「それもある…けど…」
 動きを止めて抱き付いてきたマリクに、バクラは腰から尻にかけて撫でながら声をかけた。
 慣れない体勢で足腰が痺れ始めていたのも確かだったが、それが理由ではなかった。
 好きだ、と言われて、綻んだ顔を見られないようにするため。
 照れ隠しにバクラの首筋をぞろりと舐め上げると、途端に感じる喪失感。バクラがペニスを引き抜いたのだった。
「な、バクラなんでっ」
「攻守交替ってな。次はオレ様がヨくしてやるぜェ」
「わっ」
 倒されるように姫抱きにされ、バクラが一旦立ち上がった。そして抱えられたまますぐにソファに座ったのだったが。
「ちょ、これッ待てってバクラ!!やめ、やだッ嫌だぁ………っ!」
「暴れんなって。小便したかったらしちまってもいいんだぜぇマリク?」
「っ変態…」
 かぁあ…と顔を赤らめて残りの力を振り絞り暴れてみるものの、後ろから抱き締めるように膝裏に手をかけられ、所謂M字に開脚させられている今の状態ではどうすることも出来ず。
 残っている力といっても雀の涙程度のもので。中途半端にナカを犯されていて最早一人で立ち上がることすら今のマリクには出来ない。
 部屋に鏡がなかったことが、唯一の救いだと思った。
「後ろから見るとアレだな。チンポの勃ち具合がよく分かって面白ぇ…」
「うるさいっ……!!」
 マリクは顔を背けていて見えなかったが、そう言うバクラのペニスもマリクの裏筋に沿うように勃起し張り詰めていて。
 もう、マリクの裸を見ているだけで、欲情した身体から発するニオイを嗅いでいるだけですぐにでも射精してしまいそうなほど限界だった。
 汗ばんだ痩躯を少し持ち上げ、パンパンに張った亀頭を物足りなさにひくりと蠢くアナルにわざとらしく擦り付ける。

「あは、ァッ…バ、ばくぅ、ん…あ…!」
 貪欲なまでにバクラを求めてしまう、16歳のいやらしい肉体。早く、あの灼熱の肉棒に抉り犯されたい、と渇望する腸内。
 認めたくはなかったが、これが裸になった自分の全てではないだろうか。
「あッ、突いてほしっ、早く突いてくれよっ…!!なに、も、考えられなくなるくらい激しく、犯して、ボクを呼んでくれ…ッ!」
「っ…!ヒャハハァ…ハナからそのつもりだぜぇ…マリクッ!」
 ズニュッ!ずぶずぶ…ズグンッ!!
 ずっずぬッズグっぬぢゅう、ずッずッずッずッズッ!!!!!
「あぁッ!!あ!!あっあはッアァアっひ、いっいっいっイッ、バクっあっ、んああっああっ!!!」
「ク、ソッはァッハ、ハ、ぐっ…ァ、ハ、マリ、ク、…好き、だ、好きだ、ぜ、マリクッ」
「あううっうっうっうぅんッば、ばく、あっァッアッ!」
「はぁ、マリク…こっち向け…」
「んぐ、あ、バクっん、んむ、ン…」
 バクラが渇いた声で言うと、何がしたいのか分かったマリクは首を後ろに捻り、バクラの唇に己のそれをぶつけた。
 何度も角度を変え、快感に濡れた視線を交わらせ、舌を絡め合わせる。
 ピストンは緩いものだったが注挿しながらのキスは上手く出来なくて。だがそれが二人の興奮を更に押し上げ、思考に靄をかからせていく。頭も身体も、とろけてしまいそうだった。
「んふ、んぷっにゅ、あふ…はぁ、んむぅ…」
「ふ…ハァ、ん…ン…はぁ」

 ギッギッギッ、とソファが軋む音が鳴るが、バクラとマリクは互いが発する水音と切ない喘ぎ声と荒い呼吸音しか耳に入っていない。
 マリクは濃厚なキスをしながら、カウパーを零して結合部まで濡らしている自身の陰茎を握り、特に感じる箇所を重点的に扱いて刺激する。それによって極太の雄肉を咥え込んだアナルは収縮し、バクラに苦痛なまでの快感を与えた。
「ぐ、ァアッ…ま、リク、テメッ、ハァッハァ、いい、ぜ、オシオキ、だなあ?」
「いぎッ!!あ!あァアアアア!!!」
 繋がったまま無理矢理身体を反転させられソファが背にくるように押し倒された。
 その際腸壁が普段のセックスではありえない方向に引きつられ、マリクはぐしゃぐしゃになった顔で涎を垂らしながらバクラを見上げた。
「う…バ…くら、ぁ…」
「っ、ハァ、スゲェ感じまくった顔ッ…してるぜェ?」
「…ん…あ…貴様も、な…」
「クク、…る、せぇよッ!!!」
「がはッ!ん、あはァッあっアッアッあっあぁああッバクラッああっ!い、あア…――ッ!!」
 上から腰を打ち付けられ、もう潜り込めないほど奥まで貫かれ。途方もない快感が恐ろしくて、ひたすらバクラの名を呼ぶしかなかった。
「ばくらっ!バクッバクあぁッあはっアッんぁあっバクラっアァアア!ハァッハァッ、は、バ、あっバクラぁっっっ!!」
「マリクッマリク、マリ、ク、ぅ、はぁッハッハッハァッ…づ、あッ、マリ、クッ!ハァッハ、ハ」
どちゅっどすっドスッドスッドスッドスッドスッドスンッッッッ!!!!!
 淫らに絡み付いてくる肉壺に、無我夢中で激しく腰を打ち付ける。バクラはソファに爪を立てるマリクへ手を伸ばし、ぎゅっと繋いだ。
 キスをして、好きだと言って、名前を呼んで、名前を呼ばれて、快楽を共有して、こうやって手を繋げて。
 幸せに、胸がぐっとつまった。
 ペニスが膨れ上がったのを感じ、限界だな、とピストンを更に速めて根元まで容赦なく打ち付ける。
「んはぁッ!!ハあッやだぁッバ、バクっばっあっあっあっはげっしいッ、も、ムリ、ぃ、あんっあっあァアアアッ!いあぁアアアアッ!!!」
「ハァッ…オレ様、も、いい加減出してぇッ…!はぁっは、あッ…」

 ズバンッズバンッ!ずっズブブッぐぶっぐぶっぐぶっぐぶぅっ!バチュンッ!バチンッ!!!
「はぁっはぁっ、は、は、マリクッ…マリク…ッ!!ぐ、あッ!づ…あァ…ア………ッ!!」
「ばっバクっ!あっあっやだぁッあ、あんっやらッやらぁっ!イっ…?!…あっ…アッ…!バクラぁ…ッ!!ふ、あァアアああッ…!!…ヒ、あはぁ……!!」

 これ以上腰を近付けられない所まで密着させ、蠢くマリクの腸内に搾り取られるように濃い精液を叩き付けた。
 胎内で熱すぎる迸りを感じたマリクもまた、込み上がってきた射精感に我慢せず勢いよく腹部に飛び散らせた。
 ゼェ、と射精後の脱力感に肩で大きく息をして、褐色の胸にまで散ったマリクの精液を塗り伸ばす。まるで、甘いチョコケーキにホワイトチョコをかけたようだった。

「あ…はぁ…はぁ……バクラぁ…」
「ん…?」
「食べたい…まだっ…食べさせてくれよ……ふぁ、ぁむ」
 握ったバクラの手に、ちゅ、と口付けて指に舌を這わすマリク。
「チョコかぁ…?それとも」
「アっ…ばーか…」


 クスクスと笑い合って再び燃え上がる。
 催淫効果のあるチョコよりもはるかに甘い二人だった。