欲心


「おいマリク、なんで風呂の栓抜きやがったんだよ」

オレ様シャワーで寒かったじゃねェか…
ブツブツと文句を言いつつバクラは埋まるようにソファに腰を下ろす。
マリクは緩く握った拳を口にあて俯いた。

「おい」
「え?!あ、はは、立ち上がる時に引っ掛かったのかも。ごめ、ん」
「…いや…別に構わねえけど」

何やらいつもと様子の違うマリクをおかしく思いながら、冷たく肌に伝う雫を拭き取る。



(どうしよう…やりたい……)


隣で銀糸に滴る水滴を首にかけたタオルで取るバクラをちらりと横目で見ながら、マリクは身体をひくりと震わせた。


本日、マリクは朝目覚めた時からずっとこの状態だった。
抱かれたくて、抱いてもらいたくて、どうしようもないほどの劣情が理性を食い尽くそうとしていた。
多感な年頃のマリクがなんとか現在まで耐えることができたのは、今日一日がずっと“獏良”だったからだ。

二人で夕食をとる頃には、もう今日は男のことは諦めようと風呂へ入り、虚しさはありつつも昨晩のセックスを思い出して自慰に浸った。
射精後、吐き出した精液をぼんやりと眺めながら、獏良がまだ風呂に入ってなかったことを思い出して慌てて風呂の栓を外した。
しかし再び溜めることも億劫になり、そのまま風呂を出た。

だが、マリクが上がってから代わるようにして風呂に向かった獏良が、帰ってきたときにはバクラになっていたのだ。
刹那マリクの心はドクンと膨れ上がる。
きゅん、と切なく痛む胸を押さえつつ、いつものように飢えた男が己の身体に喰いかかるのを待つ。

しかし、そういう時に限って相手はなかなか手を出そうとしてこないもので。次第にマリクは焦燥感にかられだした。
だが自分からは言い出しづらく、先ほどから何度もバクラを窺い見ていた。
(コイツに卑しい奴だなんて、思われたくない…けど…)

「マリク」
「っ…!!な、んだよ」

立ち上がったバクラに、出来るだけ平常を装い返事を返す。血液がザァザァと、体中の血管内を激しく流れる。
次第、呼吸が浅く速くなってゆく。


「もう寝るなァ」
「…へ」

無論誘いの言葉を待っていたマリクは、その盛大な肩透かしに目を見開き間抜けな声が出てしまった。
気づいたときにはマリクは立ち上がったバクラの服の裾を固く掴んでいた。

「なんだよマリク」
「あ、う、その」

引き止めてしまったものの一体どうすればいいのか。
鋭い眼差しでこちらを見てくる瞳に耐え切れず、マリクは目を逸らしてしまう。

「…用がないんなら離しな。オレ様だって眠ィんだ、つまんねえことに付き合ってられねぇよ」


冷たい一蹴。
マリクは、恥も何もかも捨てて、潤んだ声で言葉を紡いだ。



「セッ、クス、したいんだ…」











ちゅ、にちゅっ

「ん、む、んっんぅッ……」

溶かされてしまうのではないかと危惧してしまう程、深く深く口腔を犯される。
マリクは口内をぬるぬると這う舌だけに集中しようと、バクラの首の後ろに手を回し、自らもまた拙く舌を動かした。

「ふッ、う、くんッッ、〜〜〜〜ッ!!!」
く、く、と舌を押されマリクの背筋を悪寒にも似た感覚が駆け上がる。舌根はマリクの身体の中でもかなりの性感帯だった。
ぴくんぴくんと割り開かれた脚を震わせ、指と指の間でシーツを掴もうとする。

身体の熱を冷ますかのような冷たいシーツに、ぶるりと震え上がる。

「ふぷっ、ぷあっ…!あっ、あーー…」

ようやく唇が離れる。マリクはくたりと身体の力を抜き、口の端からたらたらと唾液を溢れさせた。
胸を上下させるその姿を見てバクラは低く笑う。


「まだ始まったばっかりだぜ。これくらいでへばってんなよ?」
「う、あッ」
パジャマに代用しているジャージは容易くバクラの手の侵入を許した。
その手はぐにぐにとマリクの熱く膨らんだペニスをボクサーパンツの上から揉みしだく。

「動かし難ィな…マリク、少し腰上げな」

こくりと頷いてマリクはバクラの首から手を離しベッドに肘をつく。
荒い息と共に腰を持ち上げると、するりとズボンを脱がされる。灰色の下着は、一部だけ濡れて濃く変色していた。

「何こんなエロいシミ作ってんだよ、あ?」
「アッ、そ、な事っ…言わなくてもいいだろうが……っ」
「…言われて嬉しい奴が何言ってんだか…」
「なッ、ひ?!うああっ!!」

下着の上から亀頭を口に含まれマリクの腰が大きく跳ねる。
じゅわ、と唾液を出されれば下着はマリクのペニスにべっとりと張り付いた。いつもと違う感覚に、マリクはがくがくと頭を振る。

「やめッ、バクラっ!やだぁっ、あっあぁっ!!」
「ハッ、素直じゃねぇよなあ。テメェのチンポはさっきから汁が溢れてんだぜ?」
ゴムの部分を引っ張られ、ぷる、とパンパンに張った先端を外気にさらされる。
てらてらと濡れて光沢を帯びた亀頭は、決してバクラの唾液によるものだけではないということが明確だった。


ぢゅっ、ぢゅぢゅぅうっ

「ひはッ!あァァァァアアアアッッ!!!!」

カウパーを零す尿道口をわざと音を立てて吸われ、マリクは首を仰け反らせる。

「あっ!やめ、バクラ、バクラぁッ!!」
「あ、何が嫌なんだあ?」

依然下着の中に収まったままの竿を唇で挟みながらバクラは喉で笑う。
今の、仰向けで腰を押さえられている状態では自由に動くことは不可能で。
マリクはペニスを愛撫する男へと顔を向け細かく震える手を伸ばした。

「あッ、下着っ脱がせてっ…これっ、嫌だっ…!」

思わず泣きを含ませた声を出してしまう。
いつものあの、熱くぬめった粘膜に包まれる快感が直に感じられずにいたためだ。

バクラはその言葉にクッと口角を持ち上げてマリクの下腹部を舐め上げた。




「ん…ん、」

ゴムに指をかけられ、片足が抜かれる。途中尻を揉みしだかれ、マリクは熱い溜め息を吐きながら罵声を浴びせた。
抜かれた足を折り曲げられて、反り返ったペニスの裏筋をぴちゃりと舐められる。

「あはッ、バ、クら?まだ…脱げて…」

まだ片足に纏わりついたままの下着のことを指す。

別にこれといってセックスに拘りはないマリクだったが、どうせやるならより快感を享受するために何一つ纏わない姿でやりたいとは思っていた。
二人がアクセサリーを着けないのも、着飾るのが面倒くさいからではなくただ単にセックスの時に邪魔になるから、という理由だった。
流石に父の形見のピアスだけは着けたままなのだが。

「今日はこのほうが興奮すんだよ」

「うわ…なんだか変態っぽい…っや、アアアァアアアッ!!!」

じゅぷ!
ぐちゅ、じゅっじゅっじゅっ!!

突然口の中に入れられたペニスをなんの合図もなく出し入れされてマリクは堪らず甲高い声を上げる。


「あっ、あっあっあっ!アひっ、ぅ、ぅぁあああああっ!!!!」

びゅ、びゅくっ
先ほどまで弄られていたペニスは、呆気なくバクラの口内に精液を放った。



「…あ…はぁっハァッ…ハァッ……」

「マリク、うつ伏せてケツ上げな。いつもみてェにバックで好きなだけハメてやるからよ」

上のスウェットを脱ぎながら、忙しなく肩を上下させ息を整えるマリクに言う。
ニヤリといつもの不敵な笑みで見下ろしてくる男を見ながら、マリクはまだぼんやりと霞んだ頭を緩く振った。
バクラは、ん?と声を上げる。


「バク、おねが…もっとキス、きひゅ、いっぱいしたいんだ……あっ…」

あう、と口を開けて淫らに舌を出し己の下唇を舐める。じくじくと疼く身体は、今何よりバクラからのキスを求めた。
繋がった時のそれとは比べられないが、それでも本能がマリクの口を動かす。

バクラは一瞬唖然とし、だが次の瞬間には獣の目へと変わり濡れた唇に噛み付いた。


「エロすぎんだよテメェッ」
「んっ、んふっ、んぅ〜〜〜〜…」


ちゅるるるっ、にちゅッ、ぷちゅ


再び入り込んできた舌にマリクは歓喜しネトネトと長い舌を絡みつかせる。歯茎を、歯列を、抉るかのような舌の動き。
マリクは、はぐはぐと必死でバクラの柔らかい唇に自分のものを重ね合わせる。

れる、
くちゅちゅっ、ぷちゃ
「む、ぅんッ……んっんっ」
「ん……、…ッ?!」

不意に股間から腰に走った快感にバクラはマリクから口を離した。

「くっ、マリク、」
「…ハァッ、バクラの、も、こんなに熱くなってるのに、…苦しいよな」


ごめんな、ごめん

マリクはバクラのスウェットの下の凶器を撫でさする。
自分に触りながらこうなってしまったのか、と考えると、その事を甘美に思えずにはいられなかった。
バクラのペニスは、褐色の手の暖かさを生地越しに感じ、ガチガチと硬度と熱を増す。


バクラは眉を寄せて一気に指を二本、マリクのアナルへと押し込んだ。
「ぃぎッ!…あ…指っ、つめた…あ、あ…」
「待ってろよマリク。すぐにテメェが好きで好きで仕方ねぇモンをブチ込んでやるからよ…っ!」
「あっアッ、ん!!!っっあ!あぅ、あっ」


くぽっくぽっ、にゅぶぅッ


ぐりぐりと入口を片手で解しながらバクラはズボンを下ろし反り返った己のペニスを扱く。
その形と色を視界に捉えたマリクはゴクリと唾を飲み込んだ。

ズポ…
卑猥な音を立てて指が引き抜かれ、肉棒をアナルにあてがわれる。


「ホント堪んねぇ…早くテメェを鳴かせてェよ」


精液と、カウパーと、唾液とで滑ったソコは亀頭を擦り付けるとにちゃにちゃといやらしい水音が鳴る。
高く持ち上げられた足首には未だ下着がまとわりついたままだった。

「バク、な、んで…やる気なかったのにっ…こんな……」

「ハァ?目の前でこんな熟れた身体に誘われたんだ。勃たねぇほうがおかしいだろ」

「っ…!!」

どうしてもバクラに抱かれたくて恥を捨てて言った言葉を思い出し、マリクは頬を染めバクラから顔を背けた。

「犯されたくなったらいつでも言えって言ってるだろ?オレ様はいつだってテメェを悦がり狂わせてェんだからよぉ」
「そ……な…ッ」

「ま、お喋りはここまでだ。あとは身体で…なァ、マリク?」

「ん…んああッ!!!」


勃起したペニスがメリメリと秘肉を割り挿入されていく。
バクラは肉壁の熱さと締め付けを感じ、マリクは肉塊の太さと硬さ、そして熱さを痛いほどに感じた。
腰と尻との隙間がなくなり、すぐに出し入れが始まる。


にちゃッにぢゅ!!
ズブッズブブッ、ズブッズブッ!!!


「アッ、アッ、アッ、あァッ!ば、ばくっ!やぁっ、あぁ、激し……!あっ…ぅあっ」
「そうだマリクッ……ハ、鳴けッ、もっと、鳴けッ!!」
「や、あっ、ら…嫌だぁっ…!!くはっ、あっあっあっあっあっあァッ!!!」


串刺しに貫かれた細い身体はバクラの激しい揺さぶりにがくんがくんと震える。
声を抑えようとしてもピストン運動によって女のような喘ぎ声を吐き出してしまう。


ズバンッ!ズバン!ズバンッ!!!
ぐちゅちゅっ
ズボォッ

最奥まで押し込まれ、限界まで引き抜かれ、熱い壁はペニスにぴったりと絡みつき喜びに濡れる。
マリクは短く呼吸をしながらパーカーの裾を捲り上げ、胸の上で存在を主張している乳首に指をかけた。
くにゅ、くりッ、と抓ね回すと、その快感は腰へと伝い無意識にアナルを締め付ける。

「ひ、乳首っきも、ひ、いぃ…!!!!バクラッすっ、吸ってッ…!!」
「づ、…く、アッ…この、淫乱がっ…!!」

ペニスを喰いちぎられそうな痛みにバクラは唸る。そんなバクラにマリクは胸を突き出し、乳首への愛撫を求めた。
バクラは嘲笑い、しこった乳首にむしゃぶりつく。


ぢゅっじゅるるるるッぢゅうう!ぴちゃッ、こりっ、ズじゅるっ!!


「はァッ、ア、あぁああああ……ッ」


恍惚とした顔でマリクは快感に痺れあがった。口から溢れ出る涎が頬を伝いシーツに染み込んでゆく。
ねっとりと舐め上げられたかと思えば尖らせた舌で埋没させられ。
与えられる全ての刺激にマリクは歓喜し、打ち震え、悦びの声を洩らす。


胸に顔を埋めていたバクラはひとしきり堪能した後、愛おしげに軽く乳首を吸い離れていった。
「ふ…バ、ク、ぁ…」

愛撫を受けている最中、少しも動かされなかった腰に脚を絡ませ引き寄せる。
ずっと腸内に身を潜めていたペニスは遥かに大きなものになっていた。
たったそれだけのことでマリクは堪らない射精感に襲われる。
ビクつき乳白色を含ませた体液を垂れ流すペニスの根元を指できつく戒め、今度は意図的に後ろを収縮させた。
そんなマリクにバクラは身を屈め薄い耳に口付ける。

「イきてェか…?」

「あ、あ、ア…うんッ……!!」


囁かれた言葉に何度も首を縦に振る。
体内に熱を孕ませた二人の興奮は最高潮に達していた。


ズ、ズニュッ、ズ、ズッ、ずぷっパシンッ!!

「あぁああッうあ、あぁんっばくっ、バクラぁっ!!!」

動きを再開したソレは奥のシコリを的確に押し潰してくる。
弾けそうになるペニスを握り締めながら片手をバクラの背へと回す。

痛みをも凌駕する果てしない快感
部屋に響く淫らな水音
ベッドの軋む音
獣のような二つの荒い呼吸

二人は互いの名と喘ぎしか発することができなかった。


「いぁああ…ッ!!い、イイっ、あっあっひぁッ、バクラっ、あつっ、ひぐぅッ……!」

「マリ、クッ……はぁっ…マリク…もっとオレを呼べ…っ」

「ば、バクラッ、バクラぁっ!ば、く、あっあっああっ!バクラっバクラ、バクラぁッ…!!!!」


目尻から涙を零しながら男の名を呼ぶ。
射精することを我慢させられているマリクのペニスは青紫色の筋を幾つも浮かべビクビクと震えていた。
それに気付いたバクラはマリクの手を外し、さらに突き上げを速め、深くしてゆく。



「っ、く、ハァッ、マリ、クッ!!」

「イッ、あっ!ぅく、い、あ、いくっ、ぅあっバ、クラぁっあぁああっあァアアアアアアッ!!!!」


ビュウッ
びゅるるッッびゅぐぅっどく…どくん…ぱたたッ

とっくに限界を迎えていたペニスは熱い迸りを褐色の肌に撒き散らした。
奥深くで注がれる大量の精液。
動きを止めたペニスから最後の一滴まで搾り取るかのようにぎゅちぎゅちと中を締め上げながらマリクはベッドへと身を沈めた。






「……バクラ………」

「ん……?」

「…………ッ」

「…ククッ、まだオレ様はイけるぜぇ?テメェはどうだ、マリク?」
「分、かってるだろ…!聞くなっ……!!」



口を尖らせて赤面する恋人の肌に張り付く髪を剥がす。ベッドが再び悲鳴を上げだした。


今夜の熱はまだ冷めないようだ。